第5話 3ヶ月以内に親友を作らなければならない湊、駅で知り合った3人の美少女と再会する件


 ――翌日。4月6日。


『私立瑞穂みずほ学園高等学校』の入学式を迎えた。

 創設10年目の新しい学校だが、すでに全校生徒1000人を超える大規模校だ。

 各方面の生徒や保護者から選ばれる理由は、自由な校風と多様な専門科目、それらに対応した最新鋭の設備が揃っていることである。


 この学校に、湊は入学するのだ。


 所属するのは総合科学科の選抜クラス。中学最後の半年間にブランクのある湊だが、特別推薦の扱いで入学が許された。

 湊が挙げた、とある実績のためだ。


 瑞穂学園が特徴的なのは、選抜クラスの生徒も一般入学の生徒も、基本は同じ教室で授業を受ける点だ。


(タイムリープ前は意識していなかったけど、選抜クラスと一般クラスが同じ教室なのはチャンスだ。親友作りに都合が良い)


『ご入学おめでとうございます』と書かれたアーチをくぐりながら、湊は辺りを見回した。真新しい制服に身を包んだ新入生で、校舎へと続く道はごった返している。おろしたての制服が馴染まないのか、硬い感触の袖を何度も撫でている生徒もいた。


(さすがマンモス校。これだけ生徒数がいれば、親友作りもはかどるだろう。ホクロの君とも、もしかしたら)


「待っててくれよ、結。俺は必ず親友を作って、お前を安心させてみせるからな。夏休みまでが勝負だ」


 握り拳を作る。


 昨日、実家から追い出された湊は、結の助言通り駅前のビジネスホテルに泊まった。そして、その日のうちに近くのマンスリーマンションを契約した。

 以前、『仕事部屋』としてエージェント経由で部屋を借りた経歴が役に立った。


 ただし、契約期間は3ヶ月。


 空き部屋の関係で、3ヶ月以降はいったん退去しなければならない。

 つまり、夏休みに入るまでに結と和解し実家に戻れなければ、定宿なしの放浪生活に逆戻りというわけだ。


「3ヶ月以内に、親友を見つけなければ」


 自らに言い聞かせる。

 その瞬間、湊の脳裏に同級生たちの言葉が蘇ってきた。


『あいつ、プロを辞めたんだって? なのに何で選抜クラスにいるんだよ』

『挫折した落ちこぼれが、昔の栄光で拾い上げられたんだってよ』

『えー、何それ』

『近寄りづらいよね。何て言うの、『俺に関わるな!』的な?』

『わかるわかる。自分は可哀想な人間です、こんなはずじゃなかったみたいなオーラがタダ漏れ。いるよねー、エリート意識から抜けきれない人って』


 それらはタイムリープ前に囁かれた湊への陰口だ。往来で立ち止まった湊は、周りの新入生たちが怪訝そうに振り返る中、腕を後ろで組んで深呼吸した。

『プロ』だったときのルーティンのひとつだ。


「負けるな、俺。周りの評価は、今からいくらでも塗り替えられる。俺は、タイムリープ前の俺とは違うんだ」


 顔を上げ、綺麗で現代的な校舎を見据える。そして力を込めて、一歩を踏み出した。


 ――瑞穂学園内に建てられた講堂。

 入学式はここで行われる。


 大勢の生徒がずらりと並んでいる。自由な校風が評判の学園らしく、新入生の中にも制服を早くもアレンジしたり、髪を染めたりして入学式に参加している生徒がちらほら見えた。

 この中から、親友となるべき人間を捜し出すのだ。

 それがホクロの君であれば、これ以上の成果はない。


(思い出した。そういえばホクロの君が着ていたボロボロのジャージ。あれは確か、瑞穂学園のものだった。胸元に学年を表す刺繍があったはずだが……駄目だ、思い出せない)


 さすがに、入学式にジャージ姿で来た女子生徒はいない。顔の記憶が曖昧な中、講堂にいる同級生の中からホクロの君を捜すのは困難を極めるだろう。そもそも同級生かどうかもわからない。

 さらに言えば、あんなボロボロだった彼女がちゃんと学校に通えていたのかも不明なのだ。


「出会えたら奇跡だな」


 ひとりごちる。

 それでも、湊は諦めるつもりはなかった。

 まずは、自分がタイムリープ前とは違うのだということをはっきりと宣言する必要がある。


 状況を、変えるのだ。


 ――入学式が終わり、各生徒はそれぞれの教室へと向かう。

 湊のクラスは1-A。4階建ての本校舎――通称アカデミック棟の2階だ。


 瑞穂学園にはアカデミック棟のほかに、特別棟――通称フロンティア棟がある。

 ふたつの棟は、巨大な吹き抜け構造を持つ中央ホールで繋がっている。一見するとショッピングモールのような華やかさだ。


 湊のような選抜クラスの生徒と一般入試クラスの生徒は、基本的に同じ教室で授業を受ける。そして、選抜クラスが各専門分野の授業を受けるときのみ、教室移動する仕組みだ。


「ねえ。あの人」

「あいつ、俺知ってるぜ」


 教室に入ると、数人の生徒の囁き声が聞こえた。湊のことを知っているのだ。


「プロを辞めたんだって?」


 タイムリープ前と同じ台詞が聞こえてきて、湊は立ち止まって表情を強ばらせた。それでも顔を上げ、自分の席へと向かう。

 その足が、もう一度止まる。


「あ、ノーデリカシー君だ」


 明るい声で話しかけてきたのは、若葉台駅で出会った美少女ギャルだった。

 隣には長身長髪の美少女と、目隠れ猫耳美少女――さすがに今日は猫耳パーカー姿ではなかった――も立っていた。


 まさか、駅で出会った美少女3人と同じクラスだったとは。

 これは、幸先が良い。


「おはよう。昨日はありがとね。クラスメイト同士、仲良くしよ!」

「ああ。こちらこそよろしく。俺は――」


 自己紹介しようとしたとき、美少女たちの後ろにいた男子生徒が割り込んできた。


「暦深、誰だよ。こいつ」

「昨日、駅で偶然会った人だよ。ねねっちの定期券を拾ってくれたの」

「本当か、福音?」

「う、うん。焦ってたから、本当に助かりました」


 目隠れ少女が遠慮がちに頭を下げる。


 男子生徒は「ふーん」と呟いてから、湊に言った。


「俺は相沢。相沢航平。お前は? 一般? それとも選抜?」

「俺は――いや、そうだな。せっかくなら、皆に知ってもらおう」

「は?」


 怪訝そうにする航平を余所に、湊は踵を返して教壇に向かった。



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