タイムリープした元プロゲーマーの俺、人生やり直しでヒロインと親友になろうとした結果、幼馴染みモブ男からヒロインの心を奪ってしまった件~公爵君のラブコメ~

和成ソウイチ@書籍発売中

第1話 幼馴染みモブ男を余所に、美少女たちから秘密のチャットが届いた件


 高校1年の6月初旬。梅雨の合間で綺麗に晴れた放課後のことである。


『今日は帰っちゃうの?』


 グループチャット【公爵くんちの親友さん】に書き込まれたメッセージを見て、天宮あまみやみなとはスマホから顔を上げた。


 視線の先には、夏服姿の美少女3人の姿がある。ちらっと視線が合う。

 通学用カバンに教科書を詰め込みながら、湊は「悪いな」とばかり片手を小さく挙げた。すると3人の少女たちは残念そうに眉を下げた。


「なあ、暦深こよみ! 聞いてるか?」

「あ、うん。ごめん。何かな、こーへーくん」


 別の男子生徒に声をかけられ、美少女のひとり――暦深が振り返る。制服を大胆に着崩し、前髪にメッシュを入れたギャルだ。

 暦深に『こーへーくん』と呼ばれた平凡な男子生徒は、機嫌良く美少女たちに話しかけた。


 湊が見ている前で、美少女3人といかにも親しそうな雰囲気を出している。なぜなら、『こーへーくん』は彼女らと幼馴染みだからだ。


「ノート、サンキューな。暦深が見せてくれて助かったぜ。いやー、当てられたらどうしようかと思った」

「もう。たまには自分でまとめなきゃ」

「そうは言うけどなあ……。あ、そうだ鋭理えいり詩織しおりさんは元気? そういやウチの母親が退院祝いを買ってたんだ。後でお前の家に持っていってもいいか?」

「構わないが、私が退院したのは1ヶ月以上前だぞ」

「細かいことは気にすんなって。それから、福音ねね! 登録者数10万人達成おめでとう! やっぱ俺の言うとおりにしておいてよかっただろ?」

「う、うん。ありがとう」

「いやあ、やっぱ皆すげーや。持つべきものは誇れる幼馴染みだ。つーことは、俺も十分すげぇってことで、胸張っていいよな」


 あっはっは、と笑う。そしてちらりと、男子生徒は湊を見る。その目が、自慢げに細められた。


 ――どうだ、俺の幼馴染みは。良いだろう?


相沢あいざわ。お前が胸を張らなくても、俺は十分わかってるよ。暦深の、鋭理の、福音の――親友たち・・・・のすごさは)


 内心で肩をすくめる湊。

 すると、クラスメイトの羨ましそうな声が聞こえてきた。


「ちくしょう、航平こうへいのやつ。今日も3女神と一緒なんて。これが幼馴染みの力か」

「久路刻さん、めっちゃスタイルいいよね。夏服になって胸元バーンとか、あたしには無理。見た目ギャルっぽいのに、普通にめっちゃ親切で明るくてさ」

「ああ、鋭理様。今日も凜々しくてカッコいい……。あの美しい腕で抱きしめられたい。鋭理様が舞台デビューなんてした日には絶対ぬまる自信がある」

「やっぱり福音ちゃんの『目隠れ属性』こそ至高。ちんまりボディに天使ボイスとは、神は彼女に二物も三物も与えた!」


 久路刻くろとき暦深。

 冴島さえじま鋭理。

 千代田ちよだ福音。

 そして、相沢航平。


 3人の美少女と冴えない男子生徒は、いつも一緒にいる幼馴染みだ。

 彼らの間に入り込む隙はないと、ほとんどのクラスメイトが思っていた。


 湊は帰り支度を済ませると、グループチャットにメッセージを入れた。


『今日、妹と大事な話をするから。先に帰るよ』


 再び、美少女たちの視線を感じる。


「お、天宮。帰るのか」


 小走りに教室を出ようとしたとき、航平に声をかけられた。


「じゃあな。親友作り頑張れよ」


 少し小馬鹿にしたような明るい口調。湊は「また明日」と軽く応えて、廊下へと出た。

 放課後の生徒でごったがえす廊下を玄関口へ歩いていると、チャットにメッセージが届いた。


『こーへーくんに合わせるの、ちょっと疲れたな』は暦深から。

『コウヘイ、また私たちを所有物扱いか』は鋭理から。

『航平君、私の視聴者と揉めるのは辞めて欲しいんですけど……』は福音から。


 彼女は航平の目を盗んで、グループチャット【公爵くんちの親友さん】でやり取りをしているのだ。

 航平への不満もそこそこに、彼女たちは湊へ話しかけてきた。


【暦深】ごめんね、一緒に行ってあげられなくて。妹ちゃんと上手くいくといいね。


【暦深】頑張れみーくん!


【鋭理】上手くいったら、新しいクライミングのスポットを案内する。


【鋭理】共にいただきから祝おう、ミナト。


【福音】妹さんと会うって、重要イベントじゃないですか。


【福音】うう、湊君の妹さん、気になる……のに、航平君のお話、いつまで続くのかな。


【福音】ごめんなさい、暦深さん、鋭理さん。航平君との話し相手を任せちゃって……。


【福音】私、いまだに上手く話せなくて。


【暦深】いいってことよ。


【暦深】こうやってチャットするのも慣れたしねー。


【湊】すまない、暦深、鋭理、福音。


【湊】妹とのこと、終わったら必ず報告する。


【湊】今度、皆で遊びに行こう。


【暦深】それよりみーくん。


【暦深】妹ちゃんと話をするなら、親友の紹介もするよね?


【暦深】だったら写真があった方がいくない?


 スマホを見ながら、湊は目を瞬かせる。

 すると、真っ先に暦深が自撮り写真を送ってきた。どうやら、以前自室で撮影したプライベートなもののようだ。


 暦深を皮切りに、鋭理と福音もそれぞれ自分の写真をチャットにアップしてきた。


【湊】わざわざ送ってくれなくてもいいのに。


【湊】先月、4人で撮った写真があるだろ。それを使うよ。


【暦深】ダメダメ。可愛くないし。


【湊】まあ、そこまで言うなら。


【湊】ありがとう。じゃあ行ってくる。


【暦深】頑張れ!


【鋭理】踏ん張りどころだぞ。


【福音】頑張ってください。


 口元を緩めた湊は、スマホをポケットにしまう。校舎の玄関口を、胸を張って出た。

 不安はない。これも彼女たちのおかげだ。


「持つべきものは親友だな」


 そう湊は思った。



◆◆◆


 スマホから視線を外す暦深、鋭理、福音。

 彼女らの前では、航平が機嫌良く話し続けている。

 いつものように相づちを打ちながら、彼女たちは思った。


(みーくんは、私を親友として紹介するつもりなんだろうね)


(だが、もうそれでは満足できない)


(私は湊君と――特別な関係になりたいです)


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