第35話 仲のよろしい家族なことで

 紙袋の中身を一応確認して、再び視線をもうすでに閉じているドアに向けた。

 私にとってはあまりに一瞬の出来事で、事態が飲み込めていなかったが、良い結果に進まなかったことだけは理解できた。


「くうさんとくうさんの姉さんってどれくらい似てるんだ?」

「どう見たって似てないでしょ。私はあんな無責任な人間じゃない」

「顔の事言ってるんだよ」

「姉妹だと分かるくらいには似てるんじゃないの? 同じ親の子だし」


 クソガキは私の方は一切見ず、クソガキもまた、手土産の紙袋をぶら下げながらドアをじっと見たまま私に向けて言葉を述べる。


「ブスとか言ってマジでごめん。でもくうさん顔良いなら性格も改めた方が良いと思う」

「あんたは年上に対する態度を改めた方が良いと思う。タメ口許した覚えないんだけど」

「はい、すみません」


 弟はお姉来訪から少しして、でかい荷物を持って玄関に立つ。


「行ってきまーす」

「いってらっしゃ〜い。忘れ物はない〜?」

「大丈夫。くうさん、弁当ありがとうございます」

「米一粒でも残したら絶対許さない」

「カスまで綺麗に食べさせてもらいます。行ってきます」


 弟が学校に行った後、安蘭樹さんは妹ちゃんを起こしに行った。


「くうちゃんおはよー!」

「おはよう」

「はるちゃん今日は元気だね〜。お顔洗いに行こうね〜」

「くうちゃんは?」

「洗った」

「はーい、一名様ごあんな〜い」


 また騒がしくなりそうだなと溜息が漏れる。

 テレビの天気予報を見て、外に干されている洗濯物を見る。


 妹ちゃんを連れて戻ってきた安蘭樹さんに、テレビの天気予報と洗濯物、そして私によじ登っている妹ちゃんを順番に指す。


「あ、今日も雨か〜」


 安蘭樹さんは妹ちゃんを無視して、部屋の中に物干し竿を展開し、洗濯物を中に入れていく。


「安蘭樹さん」

「ねーねー、くうちゃんたって〜」


 頂上に着いた妹ちゃんは私の首ごと体を前後に動かして、立って立ってとせがんでいる。


「たって〜」


 私の胸を叩く足を両方ともガードし、私はゆっくりと腰を上げる。


「ねーねみて! はるたかい!」

「ん〜?」


 安蘭樹さんは横目でこちらを見ると、持っている洗濯物を落として顔を真っ青にしていた。


「はるちゃん! 危ないから降りて! くうちん困ってるでしょ!」

「え〜」

「肩車ならそうちゃんにお願いして! もしくうちんに怪我させたら大変だよ! くうちんもう遊びに来てくれなくなるよ!」


 どっちにしろもう来ないけど。


「やだー!」

「じゃあ降りて。あとご飯も食べて」

「む〜」

「私が作ったやつだから美味しいよ」

「くうちゃんの⁉︎」

「そう」

「たべる!」


 降りた瞬間テーブルに走った。

 ラップを取ってすぐ大きないただきますをして、小さなスプーンでオムレツを口一杯に頬張る。


「ねーね! 中にハンバーグ入ってる!」

「そうだね〜、びっくりだね〜。美味しい?」

「おいしー!」

「良かったね〜」

「うん!」


 安蘭樹さんが妹ちゃんを見ている間、勝手に部屋を借りて服を着替える。

 お姉がさっさと帰ったせいで洗濯物を預けられなかったから、手に持って学校に行く羽目になる。


「じゃあ」

「え、もう行くの〜?」

「ここに長居する理由ないし。安蘭樹さんと登校したくもないし」

「そうだよね〜。くうちん、色々ありがとう」

「言っとくけど私は何も言わないから」

「うん。じゃあまた学校でね〜」

「くれぐれも無視してよ」

「うーん無理〜」


 私が玄関で靴を履いていると、トテトテと小さな足音が近づいてきて、また私のスカートが引っ張られた。


「くうちゃんいっちゃうの?」

「行く」

「つぎいつくる?」

「さあね」


 妹ちゃんは納得のいかない顔を浮かべているから、溜息を吐きつつ目線を合わせる。


「良い子にしてたらまた来るよ」


 そう言うとにぱーっと笑顔を浮かべ、躊躇いもなく私の唇を奪った。


「いってらっしゃい」


 後ろで見守っていた安蘭樹さんは顔を青ざめ、家族以外しないようにと強く言い聞かせているのを背に、私は安蘭樹家を出た。

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