第21話 迷惑な手紙
ゴールデンウィークも終わり、憂鬱な学校生活が再開した。
別に学校に来ることも勉強することも嫌ではあるが苦ではない。
私のこの気持ちの元凶は一つしかない。
「おはよう花恋ちゃん」
「ども」
天乃さん筆頭に学園の高嶺の花に構われることだ!
彼女達と話をつけて一月も経たぬうちに、私はあの時の行動を大いに後悔している。
もし過去に戻れるのなら、彼女らに同情して手を差し出した日の私を全力で止めるだろう。
「あれ? なんだろうこれ。手紙?」
天乃さんがそう口にした瞬間、クラスは一瞬で静まり返った。
皆耳を澄ましている。心なしか目が鋭く、その視線も冷ややかなものに思える。
天乃さんはそんなこと気にする素振りもなく、手紙を開けた。
「次いつ空いてる? だって、これ花恋ちゃん?」
「頭の中までお花畑ですか?」
「そうだよね、花恋ちゃんなわけないよね。誰だろう? なんだか怖いね」
その瞬間、学校の風紀が乱れた。
天乃さんの手紙の件は、五分足らずで内容までしっかりと学年問わず校内に知れ渡った。
そして男子は皆敵対心丸出しの顔で口を揃えてこう言った。
「裏切り者は誰だ⁉︎」
犯人探しが始まった。
互いが互いを疑い、歪み合う。世紀末雰囲気がそこにはあった。
その状況を見兼ねた生徒会が動き出した。
生徒会長直々に教室に訪れ、天乃さんから手紙を受け取った。
「この特徴のない平凡な字に見覚えのある者! 名乗り出なさい!」
メガネを光らせた生徒会長が高らかに手紙を上げたが、名乗り出る者は当然いなかった。
しかもさりげなく字をディスられているし、余計名乗り出たくないだろう。
「誰も名乗り出ない。当然のことです。では、こうしましょう。放課後までに自身の名を書き、確実に他者からの確認サインをもらい、生徒会室前のボックスに入れておくように。書かない者は犯人候補とします。以上!」
なぜ生徒会がこの件に関わるのか。
単純な理由、生徒会長本人が彼女らのファンクラブ会長であり、生徒会の人間も皆ファンクラブ幹部であるからだ。
彼女らは高嶺の花。モテる。モテすぎる。肩書きのない芸能人がいるのと同意義のようなもので、ものの三日でこの学校の風紀は外をも巻き込んで崩れてしまった。
毎日がお祭りフィーバー。他校の人もやってきて門を塞がれるどころか不法侵入される始末。
きっと近隣住人からの苦情も酷かっただろう。
そこでファンクラブの登場だ。
ファンクラブの掟一つ、決して本人、部外者に迷惑をかけるな。
二つ、個人的な接触を企むな。
三つ、告白は断られたら諦めろ。
四つ、秩序を守れ
ファンクラブの会員は外部にまで広がっている為、入学当初に比べて問題は無くなった。
だからこそ、掟破りにこれほど躍起になっているのだ。
ほんと、迷惑な事を。
「おはよ〜くうちん。みんな騒いでたけど何かあったの〜?」
「天乃さんの机に手紙が入ってたの」
「ありゃ〜。それは大変だね〜。なんて書いてあったの〜?」
「次いつ会える? って。私花恋ちゃん以外と会ってないから、花恋ちゃんじゃないなら心当たりがなくて」
そもそも私が天乃さんに手紙を出す事なんてないでしょ。
「なんか気味悪いね〜」
「そうだね。正直怖くて」
怖い怖いと私そっちのけで二人で話しているのは大いに結構なのだけれど、いつまでそのでかい脂肪の塊を私の背に押し付けて体重を掛けているのやら。
「そろそろ退いてくれない。重い」
「あ、ごめんね……。──太ったのかな〜」
自身のウエストを確認しながら軽くショックを受けている彼女を無視して前を向いた。
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