第13話

 困難とされる四階層を突破したことで命は一躍有名人となり色んな部活からスカウトを受ける様になりダンジョン探索に集中したいからと全て断っているが中には是が非でも命をスカウトしようとする強引な人も現れる始末で朝から既に疲労困憊だ。


「小林のパーティーも突破出来なかったんだろ?大したもんだぜ」


 宍戸の話では三階層を突破した小林のパーティーは四階層に挑んだがオークのあまりの強さに退却を余儀なくされたのだという。命は猛毒という心強い武器があったから何とかなったが普通は小林の様に苦戦するもので彼らはまだ、ボス部屋にも到達できていないらしく強力な魔法職を探しているのだという。


「だから言っているだろ!俺様のパーティーに入れと!」


「嫌って言ってるじゃない!私は既にパーティーを組んでるのよ!」


 小林と樋口が言い争っており強引にパーティーに勧誘している様だ。彼女ほどの神官職がパーティーに加わればそれは心強いだろうが既にパーティーを組んでいる者を引き抜こうとするのは褒められたものじゃない。


「お前も先に進みたいんだろう?お荷物なパーティーは捨てて俺様の元に来い!最高の待遇で迎えてやる」


「お断りよ」


「何!?」


 一触即発の空気となる。両者とも一歩も退こうとはせず平行線であり余裕を見せている樋口とは対照的にプライドを傷つけられた小林は怒り心頭で青筋を浮かべており今にも暴れ出しそうでこの間の獅子王の時のように自制できるか怪しい。


「その辺にしておいたら?彼女も嫌がってる」


 「ヒーロー気取りか?柏崎。最近調子がいいからっていい気になるなよ?」


 案の定、胸倉を掴まれてガンを付けられるが死線を潜り続けている命にとってその程度の脅しは意味がない。これ以上、騒ぎを起こすようならそれ相応の行動をとらざるを得ず胸倉を掴む腕を思いっきり握り締める。


「いっ!何だこの馬鹿力!」


 蛮族王の指輪のスキル 金剛力はハイオークキングが持つ筋力を与えるという強化スキルであり魔法職である命に戦士職顔負けの力を会えるもので小林はあまりの痛さに手を放してしまう。


「覚えてろよ!」


 まるで小物の様な捨て台詞を吐いて自分の席に戻っていく。実力は本物なのだからチンピラの様な言動を止めればいいのにと思いながら絡まれていた樋口の方を見る。


「ありがとう、柏崎くん。あのままだったら押し切られてたかも」


「気にするな。クラスメイトだろ?」


 部活勧誘の時に見捨ててしまったという負い目もあって既に目を見て話した間柄なのだからこの位の事は同然だ。


 お礼をさせてほしいという樋口の言葉に別にいいと答えて席に戻る。


「ヒュー!格好いい!」


「からかわないでくれ」


 席には宍戸が待っていてからかわれる。もしもの事態となったら助けようとしていたのは命だけでなく宍戸もであり素直じゃない奴だ。


「でも、いいのか?アレで小林に目を付けられたぞ。あいつ、執念深いからなぁ」


「構わないさ。小林も探索者なんだから滅多なことは出来ない」


「どうかなぁ。面倒なことになる気がするぞ」


 確かに小林の執念深さはかなりのものであり何事も自分の思い通りにならなけらば気が済まないという性格なのは入学から見ていて察することが出来るが探索者の大前提として他者にその力を使ってはいけないというものがある以上、小林もそこまでの暴挙は起こせないだろう。


 それから陣内がやってきて授業が始まる。後ろで命を睨む視線に気づかないまま。


 昼食の時間となり食堂に向かおうとすると樋口に話しかけられる。


「お昼ご馳走させて」


「別に気にしなくてもいいのに」


「遠慮しないで。これでも稼いでるんだから」


 胸を張る樋口に遠慮なく一番高いメニューを注文することにする。流石に手が出せずに食べられなかったもので樋口の笑顔が固まった気がしたが気付かない振りをしてやってきたうな重定食を頬張る。


「遠慮しないでって言ったけどよりにもよってそれ選ぶ?」


「ゴチになります」


「もう、仕方ないなぁ」


 普通の学生では到底、手が出ない金額で探索者として稼いでいる樋口だからこそ買えるもので命も買えなくはないがあまりに高いので食べられる機会がなかったので丁度良かった。


「柏崎くん、パーティー組んでないのによく四階層突破できたね」


「サモナーだから。パーティーメンバーには困ってないんだ」


「ふーん。柏崎くんが良かったら内のパーティーに入る?」


「遠慮しておく」


 一年生の憧れである聖女様のパーティーメンバーという名誉ある称号に命は一切の興味を持たずもしも、ファンクラブのメンバーが効いていたらタコ殴りにされていたことだろう。実際、今までパーティーを組まずにやってきたし今の状態で完成されており新しいパーティーに入ろうという気は起きない。


「他の人なら目の色変えてお願いしますって言ってくるのに柏崎くんは変わってるね」


 樋口自身、今のパーティーメンバーに不満がある訳ではないが自分を聖女様と信奉しているパーティーメンバーとあまり距離が詰められずにいてそんな感じが一切ない命が新たにパーティーに入ってくれたら新しい風がパーティーを変えてくれるのではないかと思ったがあっさりと振られてしまった。


 預けていた魔石から装備が完成したという知らせを聞いて金倉の工房に行くとそこには金倉だけでなく那須の姿もあった。


「お、オークの魔石はポーション作りに最適」


 高い精力を持つオークの魔石はポーション作りの素材において適しているという話であり本当はハイオークキングの魔石を使いたかったらしいが装備を作るので遠慮してもらって金倉に預けていたオークの魔石を幾つか使ってポーションを作るとのことでハイオークキングの魔石が何になったのかを見に来たらしい。


「流石に今回は苦労したよー。Bランクの魔石を扱うのなんて初めてだったから。でも、上手くできたと思う」


 『蛮族大王の長剣』ランクB

 攻撃力50 耐久度60

 スキル

 金剛力、猛毒


『蛮族大王の大楯』ランクB

 防御力60 耐久度70

 スキル

 剛皮、再生


 毒蜘蛛女王の剣から猛毒のスキルを摘出して新たにスキルを組み込むという並の鍛冶職人では出来ない芸当でマイスターから学んだ技術だということでこれで更なる戦力アップが望める。


 不要となった毒蜘蛛女王の剣と盾は金倉が引き取ってくれて売りに出すらしく元の持ち主であった命に得られた利益の何割かを分けてくれるという話で猛毒というスキルが無くなったとはいえかなりの高性能な装備でありかなりの高値で売れる事だろう。


「た、頼みがある」


 那須が言うにはポーションを作るための材料である薬草が不足しているらしく今のポーション品薄の状態で薬草までも買われているらしく錬金術師がポーションを作る事すら出来なくなっているらしくそれを採って来て欲しいとのことだった。


 そうなるとかなり大量に集めなければならず学校外のダンジョンに採取しに行くしかない。


「だったら世田谷ダンジョンの二階層がいいか。モンスターもそこまで強くないし採取に集中できそうだ」


「それがいいねー。私も手伝いに行きたいんだけど生憎と仕事が詰まってて」


「わ、私も付いていく」


 予想していなかったことであり薬師の彼女がダンジョンに入るというのは相当、危険だ。気を使ってやめた方がいいと言おうとしたが決意は固いらしい。


「よ、四階層を突破したんでしょう?なら、私を連れてても問題ないはず。そ、それに薬草がどんなのか分からないだろうし」


 間違えて毒草を持ってこられても困ると言われてぐうの音も出ない。探索者をやっていたらこういった事もやらなくてはいけないというのを理解しているため命は那須の提案を受け入れた。


 早速、那須と世田谷ダンジョンに行くことになり始めてパーティーを組んでダンジョン探索に挑むことになり一那須が一階層を突破していない為、召喚モンスターで護衛しながらあっという間に一階層を突破し二階層に辿り着き広い草原に辿り着く。


「金倉から凄いとは聞いてたけどこんなにだったんだ……」


 尋常ではない強さのモンスターを五体も使役しており命本人の強さも破格なもので金倉から凄い探索者なのだと聞かされてはいたがこれほどの強さだとは思わなかった。工房に籠っていても獅子王や樋口の名は聞いたことがあるが目の前の命は彼女らにも劣っていない所か上回っているとすら思える。


「草原には生えていないと思うから森の方かな?」


「そ、そうだと思う。森の方が良く生えてるはず」


 そう言って襲い掛かって来るモンスターをそこそこ討伐しながら森の方へと向かっていく。多くの木々が生い茂り豊富に草木が生えており森の中では猿やリスと言ったモンスターが存在していくが大人しい性格なのか命たちを見ても襲い掛かろうとはしない。


「じょ、上薬草がこんなに!」


 偶然見つけた先が薬草の群生地だったようで那須はテンションが上がっている。ポーションに使う薬草にも種類があり上薬草はその中でも品質が高いものでポーションは薬草を煮詰めて濃縮しそれを水で薄めるというもので素材の品質が良ければポーションの性能も上がる。


 那須はご機嫌な様子で薬草を採取しており命も採取を手伝おうとするがどれも同じ草にしか見えず鑑定を使うと何とか薬草と雑草の区別が付く。


《スキルレベルがアップしました。》

 

 柏崎命

 スキル

 鑑定9→10


 黙々と作業を続けて持ってきた籠の中に薬草がぎっしり詰まっておりそろそろ帰ろうかと身支度をしていると周囲を偵察していたブランが警告の鳴き声を上げる。


 モンスターがこちらに近づいているという警告だがにしては警戒の度合いがいつもと違い嫌な予感というものは当たるようだ。


「那須。俺の後ろに」


「う、うん」


 那須を囲うように陣形を組みやって来るモンスターに備える。世田谷ダンジョン二階層のボスはこの広い草原を移動しており前回来たときは見つけることが出来ずに帰りこの広い草原を統べるモンスターが森の中から現れる。

 

 グラスウルフロード

 スキル

 咆哮、噛みつき、統率


 格下だからと侮れるモンスターではなく複数のウルフを従えており那須を守りながらとなると行動が制限されて何時もの様に戦うことが出来ない。逃がしてもらえそうな雰囲気ではなく今にも襲い掛からんとしており気合を入れる。

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