終わった刑事と狂犬娘、失われた街の異能者狩り〜相性最悪の二人、今日も死線を駆け抜ける〜
ハシビロコウ
第1話 失われた街
暗闇の中、指先にぬるりとした感触がまとわりつく。鉄錆の匂いが鼻を刺す。温かいのに、ぞっとするほど冷たい。
視界はぼやけ、思い出すたびに記憶はざらつき、ノイズが走る。ここで何が起きたのか。自分は――何を選んだのか。
蛍光灯が切れかけた音だけが耳を刺す。白い床に、赤い液体が滴る。震える手、濡れた膝、荒い呼吸。視界の奥で、動かない“誰か”がこちらを見た。
大きく見開いた瞳と合った瞬間、城田(しろた)の意識はぶつりと断ち切れた。
*
護送車の振動が、無機質に体を揺らす。膝の上には黒い封筒。赤インクで殴り書きされた文字。
──失街(しつがい)警察署特別課
笑えるほど分かりやすい左遷だった。
「日本の警察の恥だ」「二度と表に出すな」「怪物め」──浴びた言葉が脳裏をぐるぐる回る。
しかし、結論は意外なものだった。怪物には、怪物なりの使い道がある、ということらしい。
護送車が停まり、扉が開く。外気が鼻を刺した。腐敗と薬品が混じった匂い。
高い壁、壊れた看板、判別できない塊――人かゴミか。酒場の奥から笑い声と怒号が同時に響く。
──ここが、失街か。
最悪な状況でも、腹は減る。角を曲がると、小さな中華料理屋【竜胆】。城田は暖簾をくぐった。
店には客が3人しかいなかった。そのため、注文してから数分で炒飯がカウンターに置かれた。
「お待たせしましたー、炒飯です」
「ありがとうございます」
炒飯を受け取ろうとした瞬間、隣から鋭い声。
「待て、てめぇのじゃねぇ」
振り返ると、スーツらしきものを着た若い女がいた。黒目の大きい整った顔立ち。しかし、前髪で分けた長い黒髪は髪はボサボサ、ジャケットは雑に羽織り、口元にはラーメンの汁。箸の動きは犬食いそのもの。
下品なのに妙に絵になる、不気味な美しさ。
「その炒飯、頼んだのは私。だから私のだろ」
「店員がここに置いた」
「ミスだろ、よこせ」
「……は?」
皿に手を伸ばす。反動で米がこぼれる。女が笑った。
「やんの?」
城田は深く息を吐く。
「食いたきゃ食えよ」
席を立つと背後から嘲りの声がした。
「逃げた、だっせぇ」
振り返らない。城田の胸の奥が、じりじりと焦げる。
冷たい夜風の中、城田は歩き出す。行き先はひとつ――喰骨区・失街警察署。
公安の落ちこぼれが行き着く、最終処分場。
──そして城田はまだ知らない。
ラーメン屋で犬食いしていた女が、今日から同じ部署で――相棒になることを。
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