アートとエンタメの天才が集まって世界を作るプロジェクト

花城このか

第1話 ディメンションウォーカー

 無機質なチャイムの音に次いでスマホが短く震えた。空韻一馬そらおとかずまは急いで荷物をまとめ、所属する部活動の借りている教室へと向かう。今日は部活動_エンターテインメント同好会は活動日ではない。今日行われるのは同好会の中で組まれたユニットの定例会だ。ドア横の端末で指紋認証を行なって、空いたドアに潜る。

 教室の側面に貼られた大判の窓に二人のメンバーが反射して見える。その二人はこちらに気付いた様子で一度顔を上げたが、また難しい顔に戻って、手元のタブレットに視線を戻した。

「二人とも、突っ立ったままどうしたんだ?」

一馬は、この三人組ユニットのリーダーとして二人の反応に少し不安になった。悪い知らせではなさそうだが。

「ああ、一馬チャット見てないの?」

(チャット、きてたのだけ確認して開いてなかった。ただ、確か)

「なんか、リンクだけだったような……」

「そうだよ!チャータメの公式最新情報。二時間前に更新されててさ」

チャータメ_Future entertainments株式会社が正式名称だが、要はクリエイターやアーティストなどのための大規模SNSとサイトだ。三人のユニット、ディメンションウォーカーはそれに併設された事務所に所属している。

「ついにあのフルダイブ型VRワールドメイキングソフト、Hello worldと提携して、新部門を開設するんだって!」

「まじか」

(つまり、フルダイブワールド制作が次の事務所での波……器具はすでにほとんどの家庭に普及したとか言われてるもんな)

「もう察したみたいだけど、次の流行は間違いなくオリジナルフルダイブワールドってやつだし、手を打つなら早く打たなきゃねって芽来と話してたんだよー」

ここまで興奮気味で話しをしてきた北野結翔きたのゆいとは一方で考え込むように斜め下に視線をやって硬直しているメンバー、桐花芽来とうかめくの方を見やった。

「計画では、ちょうどこれから活動に力を入れていく予定になってた。大掛かりになってもいいなら、のるべき。コンテストも多分ある」

芽来はそれだけ言うが、言っていることに反して、普段の無感情ぶりは変わらない。それに加えて何かひっかかることもあるようだった。珍しく、視線が泳いでいる。

「そう!何せかなり大掛かりになるよね。でもだからこそ、企画部の僕らが動く前提なんだと思うんだ!」

結翔は軽く伸びをしながら、その高い声で言った。

「注目されているコンテストで好成績を狙うってのはアリだな」

ディメンションウォーカーは企画部だ。コンテストに参加するとなると複数分野の人材を必要とするプロジェクトを作り、協力者を集めることになる。

「ちゃんと、会議する必要がありそうだな」

一馬の言い分に二人は頷く。

「時間はある。焦りすぎはよくない」

芽来はやはり機械のように告げた。

「んじゃ、座ろっか」

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