第6話 リリスが見たもの、そして最深部へ
「おはようカービーさん」
知らぬ女性の声で目が覚めた。
声をかけたのはリリス。
「あなたのおかげで話せるようになるまで回復しましたわ」
彼女はベッドの横でくるりと回復した様子を見せると、うれしさのあまり泣き出し俺に抱きついた。
「おめでとう。良かったな」
優しく頭をなでる。
でも彼女の心臓は動いていない。
傷は治っても……。
食事中、二人が気になることを話していた。
「リリス、まだあんな話を信じてるッスか?」
「ええ、私達はそれを探すためにこの迷宮に来たのですわ」
それは 悪魔の欠片と神の欠片 と呼ばれる秘宝だ。
悪魔の欠片は死者を蘇らせ
神の欠片はあらゆる物を創造する
俺も長くハンターだったが、悪魔の欠片については知らない。
リリスは廊下の奥でその両方を見たと言う。
「でも、欠片まで行くにはあのゾンビ部屋を抜けなければなりませんわ」
彼女の表情に元気はなく、それは無謀を意味した。
「その欠片があればお前たちは元に戻れるのか?」
「自分達死んでるッスから挑戦する価値はあるっす」
こうして 神と悪魔の欠片探しが始まった。
・・・・
二人は今まで廊下の奥にゾンビ部屋に行き食料の入った木箱を回収していた。
そこにはゾンビがたくさんいて、生者が通過するのは難しいようだ。
しかし、それほどゾンビがいるのにここには現れない。謎が増えた。
「もしかして落下部屋に聖母像があるから奴等が来られないのか?」
「あの部屋の近くは聖域みたいで、ゾンビには眩しくて近づけないッス」
二人はゾンビに成り立てだったので近づけたのだとか。
「では、あの聖水を大量に持って行けばゾンビよけになるのではないか?」
俺達は死体から水筒や水袋をたくさん探し出した。
そしてその中に聖水を入れる。
「でもこんなにも持てないですわ」
「大丈夫だ。俺はアイテムストレージ持ちだ」
不思議な信頼関係で結ばれた彼女達を信じ、俺はスキルを打ち明けた。
「ストレージ持ち!? こんな無謀な作戦を考えつくわけッスね」
「ああ、まかせろ限界まで聖水を持って行くぞ」
光石の照らす薄暗い廊下を進み二人の後を追う。
大部屋だ。そこには大量の木箱や宝箱があった。
「なんだここは……倉庫か?」
「これから迷宮に運ばれていく箱ですわ」
理由や仕組みはわからない。
箱詰めされた物がこの部屋にやってくると、その箱をゾンビ達が迷宮へと運んでいく。
「だから定期的に迷宮には箱が現れるのか?」
「ゾンビを倒すと箱がドロップするのも同じッスね」
意味がわからない。
その状況だけ見て俺たちは先に進んだ。
「カービー、気配を消すッス」
暗がりで良く見えないがわずかな明かりでうごめくゾンビが見える。
俺は気配を消し物陰でじっとしたが、彼女達は平然と近づき有無を言わず攻撃。
「ホーリーファイア!」
急に明るくなり爆発音。
「死ね!ですわ!」
続いて斬撃音。
ゾンビ達はルナの魔法で吹き飛び、リリスの剣捌きで首が飛ぶ。
「お前達強いな。でも襲われないのか?」
ガッツポーズの二人。
「心臓が動いてないから警戒はされないッス」
ゾンビが現れると二人が先行し倒し、進む。
これを繰り返した。
・・・・
長く広い倉庫の奥には、光の空間から箱が現れると滑るように倉庫内に流れていく。
「これは転移ゲートか?」
「出口側ですわ」
その横には幾何学模様が刻まれた大きな扉があった。
「この扉の先で欠片を見ましたわ」
しかし扉は開かなかった。
「任せるッス」
ルナがそうつぶやくと
「ホーリーデトネイション!」
扉がまばゆい光に包まれると扉が大爆発を起こしたのだ。
吹き飛んだ扉の先には爆発で肉片化したゾンビ達。
「結構片付いたと思ったけど、まだたくさんいますわ」
部屋の奥にはまだ大量のゾンビ。それらが一斉にこちらを向く。
聖水をばらまくとゾンビは煙を放ち苦しそうにもがき悲鳴を上げた。
『グァァア!!!』
「効果有りッス」
「あの祭壇にある二つの石が悪魔の欠片・神の欠片ですわ!」
俺と二人に聖水を振りかけると、二人の体が光を放ち聖なる空間に包まれた。
一時的に聖なる加護を受け攻撃と防御もアップ。
近づくことのできないゾンビ達をザクザクと切りつけるリリス。
ホーリーファイアで燃すルナ。
そして倒しそこねたゾンビを聖水で浄化する俺。
途切れることなく襲いかかるゾンビ達に激戦が続いた。
そして、祭壇の欠片に手を伸ばそうとしたときだった。
『待つのじゃ』
祭壇の奥から老婆が現れた。
その姿を見たルナが震え上がり動けず、リリスは恐怖で身動きできない。。
俺にもわかる、死を纏う強敵だ。
ストレージにあるのは最後の水筒1本分の聖水。
「アンデッドロード……あり得ないっす」
『お主達、派手にやってくれたようじゃが、さすがにそれまでを取られてしまっては困るのじゃ』
「死んでわびろってことか……俺たちの運命もこれまでか、なら一矢報いるぞ!」
『いや待て待て、欠片さえ残れば元には戻る。どうじゃお主達、このまま帰ってくれんかの』
突然の提案に戸惑う。
アンデッドロードには勝てない。もう無事に帰れないだろうと。
「本当は帰りたい。二人とも心臓が動いていないから欠片を使い生き返りたいんだ」
『お主達、悪魔の欠片のことを言っておるのか?あれは死者を蘇らせるもので、アンデッドを作る物じゃぞ』
俺たちは落胆した……。
『でもお安いご用じゃ』
アンデッドロードは動けない二人の胸に手を当て魔力を流し心臓をマッサージする。
鼓動を始める心臓。
「「えっ?心臓が動き出した」」
『二人は不浄な物を食わず、体の修復は終わっておったのじゃ。あとは心臓を動かすきっかけが必要だっただけじゃ』
「生き返ったの?」
喜びで涙ぐむ二人。
『あとはそこの暗黒ゲートから出て行け、早く行くがよい』
喜びは後に回し、この空間を一刻でも早く去るため3人で手をつなぎ暗黒ゲートに飛び込むと、気持ちの悪い浮遊感に襲われる。
三人は離ればなれにならぬよう強く抱き合った。
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