無職扱いの魔装師、落ちこぼれ四人と七大ゴーレム討伐へ
都丸譲二
第1話 無職の少年、落ちこぼれパーティーに拾われる
――世界には、《ゴーレム迷宮》と呼ばれる場所が五十以上存在している。
どれも石と金属で組まれた巨大構造で、内部は自律稼働するゴーレムが巡回し、階層が変動し、資源が湧き続ける。
迷宮は人を拒むように危険だが、それでも人は潜る。金と名誉があり、そして……帰ってこない者もいる。
両親が消えた
俺――レオン・アストレイはずっと迷宮の“仕組みそのもの”に惹かれていた。
子どもの頃から、歯車や魔力導線の流れが“視える”目を持っていたせいで、迷宮が巨大な機械仕掛けの塊に思えたのだ。
だからこそ、両親が姿を消した理由を知りたかったし、迷宮に潜りたかった。
だが――神殿での職業判定は**無職(ノービス)**だった。
戦士にも、魔術師にも、探求者にもなれない。
それでも俺は迷宮から離れられず、ギルドの“裏方雑務”として働くことを選んだ。
迷宮の話が聞ける。探求者が壊して持ち帰る武具を見られる。
――いつか自分にも入れる隙がないかと、淡い期待を抱いたまま。
*
「おい受付っ! また斧、壊れたんだけどよ!!」
朝のギルドが一瞬でうるさくなる。
振り返るまでもない。声だけで誰かわかった。
赤茶の短髪、無駄に分厚い胸板に、斧より太い腕……じゃなく、斧よりは細い腕の男、ガイアス・ヴォルディン。
職は《戦士》。
本来は最前線で敵を薙ぎ払う役だが、彼は攻撃力が致命的に足りず、
敵を倒す前に自分の武器を壊すという、ギルドでも有名な落ちこぼれ。
「街道任務で鉄皮イノグに当たっちまってよ、いやマジ硬えんだって! な? ユート!」
「……俺に振るな。報告書に“想定外”と書いたのはお前だ」
隣の黒髪の青年、ユート・セレン。
青い瞳で的を見るときだけ異様に集中するが、
**矢を放つ瞬間だけ“風が曲がる”**ように外れる、残念すぎる《弓術士》。
無表情で冷静な分、周囲は扱いづらそうにしている。
「二人ともケンカしないの~。ほら、今日もミナが回復して……あ、昨日MP切れで倒れちゃったんだった」
癒し手・ミナ・ルーエル。薄金髪で、温かい笑顔が似合うが――
回復魔法を二回撃つとMPが空になるという致命的欠陥持ち。しかも回復力も並以下。
優秀な治癒士が貴重な中で、これは本当に痛い。
「はーい! 今日のリィナちゃんは元気いっぱいですよ~! ……あれ? 杖が震えて……ひゃっ……!」
金髪ツインの少女リィナ・フェルミア。職は《魔術師》。
元気で明るいけど、
魔力暴発体質で、魔法発動時の半分が自爆ぎみのバックファイアになる。
ギルド職員の避難訓練は、大体この子のせいで編成されている。
――これが落ちこぼれ
加護は薄いが、悪い奴らではない。
俺はギルド裏方として棚の整理をしていたが、ガイアスの機械斧が視界の端に入った瞬間、“視えて”しまった。
魔力導線の焦げ。ギアの逆噛み。
これは壊れたんじゃなく、最初から構造がおかしい。
「ちょっと、見てもいいですか」
気づけば歩み寄っていた。
「ん?誰だお前?」
「裏方職員のレオンといいます。この
「ああ、新人? いや、そうでもなさそうだな。おう、好きに見てくれ」
機械斧を持つ。重い。でも分かる。
内部の仕組みが浮かぶように“視える”。
「……歯車が上下逆に噛んでます。魔力導管も逆流気味。
このままだと毎回反応遅れますよ。壊れるのは当然です」
「お、おい……今の一瞬で分かったのか?」
「慣れてます。“流れ”が分かるので」
ユートが俺を横目で見た。
「……構造視界(ストラクチャーサイト)か。珍しいな」
リィナがぱっと身を乗り出す。
「えっ!? それって、魔術の専門家でもできないやつですよ!? なに者なのレオンくん!」
「ただの無職ですよ」
ミナが困ったように眉を寄せる。
「無職でも……そんなに視えるんですか?」
「職にならなかっただけで、昔からこうなので」
俺は工具棚から調整刃と導線針を取り出し、斧を分解する。
焦げて固まった導管を削り、魔力の通りを整え、逆噛みしたギアを正規位置に戻す。
カチ、と小さな音がした。
「……これで大丈夫です」
ガイアスが恐る恐る斧を振り、そして――目をひん剥いた。
「軽っ!? え、なにこれ!? え、てか魔力の回り……前より良いんだけど!?!?!?」
「導線抵抗を少しだけ落としました。無理に振り回すと壊れますけど」
「レオン……お前天才かよ……!」
ユートが短く言う。
「……本物だ」
言葉数が少ない男の口からこれが出るのは、相当な評価だ。
その流れで――ガイアスは急に叫んだ。
「よし、決めた! レオン、お前うちに来い!!」
「……は?」
「戦えなくても構わねぇ! 武器を壊さねぇだけで俺たち全員の生存率が跳ね上がるんだよ!!」
リィナが両手を上げて叫ぶ。
「賛成~!! レオンくん、リィナの魔力暴発もなんとかしてほしい!!」
「……人の役に立ちたいなら、ここより良い場所だ」
ユートの言葉は淡々としているが温度がある。
ミナはおずおずと、でも優しく言った。
「レオンさん……迷宮、好きなんですよね? わ、私たち……まだ一度も入れてなくて。良かったら……一緒に……」
胸の奥が少しだけ熱くなる。
迷宮に入りたい理由は、ただの好奇心じゃない。
両親が消えた理由を、知りたい。
受付の職員が書類を持ってきた。
「補助枠でなら、無職でも同行可能です。戦闘は厳禁。後衛から離れないこと。それが条件です」
ガイアスが俺の背を叩いた。
「よっしゃ! 明日、
俺は静かにうなずく。
「……わかった。俺にできる範囲で手伝う」
こうして、落ちこぼれ
無職の俺が加わった。
迷宮に入る資格のない俺が、迷宮へ向かう最初の日。
両親が消えた扉の前まで、少しだけ近づけた気がした。
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