罰ゲームで俺に告白した同級生の末路がカオスすぎる件

京崎守仁

第1章:カオスなラブコメの幕開け

00:プロローグ

 ある日の放課後。


 俺――仲尾拓真なかおたくまを含む白坂しらさか高校「日本文化研究部」の部員五人は、世間一般が想像する部活動のイメージとは大きくかけ離れた時間を過ごしていた。


 部室はまるで時代劇のセットのようだった。


 古びた畳は踏むたびに柔らかく沈み、壁際には掛け軸や和紙の灯りが並ぶ。木の香りと古書の匂いが混じり合い、夕陽が障子を透かして淡い橙色を広げていた。


 まるで時間が止まったような空間。けれど、そこで繰り広げられるのは、和の趣とは真逆の自由すぎる日常だった。


 読書に没頭する俺。黙々と勉強する者。スマホゲームに夢中な者。将棋盤を挟んで真剣勝負をする者。


 規律も目的も曖昧で、ただ「居心地がいいから集まる」だけの部活。


「……おっと、もうこんな時間か。すまん。今日は帰る」


 俺は読みかけのライトノベルにしおりを挟んで閉じると、バッグを肩にかけ、畳を踏みしめながら急ぎ足で扉へ向かう。心臓の鼓動が早まるのを自覚しながら。


「待って。まだ部活は終わってない。どうしてそんなに急いで帰ろうとするの?」


 低く響いた声に振り返ると、部長の白石澪しらいしみおが黒髪ロングを揺らしながらこちらを睨んでいた。


 切れ長の瞳は冷気を宿し、まるで氷柱のように鋭い。


 視線に射抜かれると、足が自然と止まる。


「五時からルナ姫の生配信があるんだよ」


 必死に理由を告げる俺。


 現在の時刻が午後四時三十五分で、五時から推しのVTuber「月ノ瀬ルナ」の生配信が始まる。リアルタイムでの視聴は義務であり、忠誠心を証明する儀式なのだ。


 自宅までは徒歩十五分の距離なので、ぎりぎりの時間になるだろう。時計の針が進む音が、やけに耳に刺さる。


「ダメ。まだ帰さない。これは部長命令。下校時間まではここにいること。それが最初に決めたルールだったでしょ」


 澪はぴしゃりと言い放つ。


 美しい顔立ちなのに、頑固さが前面に出てしまう。


 最近は束縛めいていて、俺としては扱いづらい。


「そう言われてもなぁ……」


 俺は困り顔をしながら頭を掻く。


「みおっちは、たっくんが先に帰っちゃうのが寂しいんだよね」


 金髪ギャルの喜多嶋優奈きたじまゆうなが、無邪気な笑みを浮かべながら澪の肩に肘を乗せる。


「は、はぁ?! 別にそういうんじゃないから。私は部長として、拓真たくまくんが部活をサボらないように指導してるだけ」


「またまた~。素直になればいいじゃん。意地っ張りはよくないぞっ☆」


「やめて。本当にウザい」


 澪の頬が赤く染まり、怒りと照れが入り混じった表情になる。


 優奈はニヤニヤしながら、その頬をツン、と突っついた。


「頼むから帰らせてくれよ。配信開始に間に合わないだろ……!」


 胸が苦しいほどに鼓動が速まる。秒針が刻む音が、まるで死刑宣告のように迫ってくる。


「じゃあ、部室で配信を観るのはどうかな、タクにぃ。みんなで一緒に」


 一年生の高村寧音たかむらねねが小さく手を上げて提案した。ショートボブの小柄な女子で、澪には犬のように扱われており、そのことに悦びを感じている。よくわからない嗜好だ。


「あ、それいいですね。ボクもぶいちゅーばー観たいです!」


 寧音と同じ一年生で、どこからどう見ても美少女のさかきひなたが目を輝かせて賛同する。


「ナイスアイデア。たっくんもみおっちも、それならいいよね?」


 優奈が腕を組み、ニカっと笑う。


「あのなぁ……」


「そうね。VTuberも立派な日本文化の一つだから、配信視聴を部の活動として認めてもいいと思う」


 澪は真顔で頷いた。部長、お前まで乗るな。


 うちの部活、本当に何でもアリかよ。


「あ! この部屋、プロジェクターとスクリーンあるじゃん! でっかい画面で観たら映画館みたいで楽しそう!」


 優奈は完全にノリノリで棚からコードやリモコンを引っ張り出す。俺の意見は綺麗にスルーされた。


「寧音、お菓子とジュース買ってきますね! 澪先輩、何か欲しいものありますか?」


「お金」


「了解です! 家から貯金箱持ってきます!」


「……いや、冗談だから」


「ボクも買い出しついていくよ」


「ありがとー、ひなちゃん」


 もう止められない。流れは完全に決まってしまった。


 ――どうしてこうなった。


 本当は一人で静かに推し活を楽しむつもりだった。


 それが、こんな賑やかな観賞会になるなんて。


 だけど、この騒がしい空間が心のどこかで嫌いじゃないことを俺はまだ認められずにいた。


 そして思い出す。


 すべての始まりは――あの一通の手紙だったことを。

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