第9話 姫君...ピンチ!?

蓮は息を切らしながら珍矛を構え直す。


蓮「……はぁ……はぁ……よし……!

 インプ撃破!これで――」


だが――

瓦屋根の上、黄昏パンティマジシャンの仮面がギラリと光った。


「……ブラボー、勇者よ。

 インプたちを倒したその実力……!

 実に、実に美しい羞恥だ……!」


蓮「美を語るな変態!!」


怪盗はくるりと一回転。


「だが――真の芸術はこれからだ!」


そう宣言すると。


次の瞬間。


怪盗は三回転、いや四回転、いや目で追えないほどの高速捻りを加え――


王女「ひゃっ!?す、すごい速度で……!」


老魔術師「来るぞ勇者殿……!あれが奴の奥義……!」


黄昏パンティマジシャンが叫んだ。


「――《俊足の下着泥棒(パンティマジック)》発動!!」


風が裂けた。


怪盗の姿は消え――

一瞬にして、王女の背後へワープした。


蓮「うそだろ速すぎ!!?」


王女「えっ!?いつの間に!?」


怪盗は勝ち誇った笑みを浮かべ、片手を王女の腰へ伸ばす。


「さぁ姫君……

 あなたの“純白の恥じらい”……

 私が――頂戴しましょう!!!!」


が。


次の瞬間。


怪盗「……あれ?」


蓮「……え?」


老魔術師「む……?」


怪盗の手は、

王女の腰の布を――

何も掴めていない。


怪盗「な、なぜだ!?

 なぜ……なぜ盗めない!?

 私ほどの怪盗が……!?」


蓮「え、ちょっと……一体どうして!?」


王女はほんのり頬を赤らめ、しかし凛と胸を張って言った。


王女「ええ。私……

 今日、履いておりませんもの。」


世界が止まった。


怪盗「」


次の瞬間――


ブシャァァァァァッ!!!!


黄昏パンティマジシャンの鼻から、滝のように血が噴き出した!


怪盗「ば、馬鹿な……!

 履いていない……だと……!?

 そ、そんな……そんなゼロの状態は……

 パンティマジックの理論外……!」


ゴフッ!!!


黄昏パンティマジシャンは地面に崩れ落ちた。


蓮「死んでる!?いや気絶!?どっち!?」


王女はスカートを押さえつつ、申し訳なさそうに振り向く。


王女「い、いえ……その……

 今日は洗濯を……しておりまして……

 パンツが……その……乾いておらず……」


蓮「そんな日常的な理由なの!?」


老魔術師が、深く頷きつつ説明を始める。


老魔術師「勇者殿……これぞ《俊足の下着泥棒(パンティマジック)》最大の弱点……」


蓮「最大の弱点……?」


老魔術師「パンティマジックとは、

 “対象のパンツの存在を前提に”

 魔力を高速回転させ奪うハイスペル……」


蓮「...はい」


老魔術師「じゃが……もし対象が――

 そもそも履いとらん という状態であれば……」


蓮「それなら……?」


老魔術師は真剣な顔で言い放った。


老魔術師「今まで盗んできたパンツの負荷がすべて逆流し、

 術者へのダメージとして降り注ぐのじゃ。」


蓮「そんなアホな!!?」


王女はおずおずと言う。


王女「……パンツを盗むという行為自体が、

 とても“高度な羞恥の操作”みたいで……

 履いてない人には……効かないらしいんです……」


蓮「なんだよその変態理論!」


倒れ伏したパンティマジシャンは、震える指で空を指さした。


怪盗「み……見事……

 姫君の潔白なる……ノーパン……

 完敗……!」


ドサッ。


完全に気絶。


蓮「ノーパンで勝ってしまったのか...」


王女「ご、ごめんなさい勇者様!

 でも……これで街は救われましたよね?」


蓮「結果的にはそうだけどさ!!」


老魔術師は杖をつき、しみじみと言った。


老魔術師「……パンティマジシャンよ。

 パンツを愛しすぎたがゆえの、悲劇的最期じゃ……」


蓮「...羞恥心...か...」


蓮「魔王、お前は一体何故羞恥を消そうとするんだ?」


騎士団が"変態"を連行していくのを見送りながら、勇者は宿敵『魔王』に思いを馳せていた。

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