第5話 この世界は...
蓮が珍矛を肩に担いだまま、ぜぇぜぇと息を整えていると――
老魔術師が杖をつきながらゆっくり近づいてきた。
「……勇者殿。今の“羞恥の光”……まさしく伝説通りですじゃ」
蓮「伝説の呼び方どうにかならないの!?羞恥の光って何!?」
老魔術師は深刻な顔で、だが静かに語り始めた。
「勇者殿……この世界は今、“羞恥”が消えつつあるのです」
蓮「……は?」
王女が小さく頷く。
「実は……それこそが魔王の力なのです」
老魔術師は大広間の割れた床を見つめ、眉を寄せた。
「魔王は“羞恥を消し去る呪い”を世界に広げる存在……
羞恥を奪われた者は、どれほど常識的な者でも――
徐々に“ためらい”や“自制”を失います」
蓮「それって……ただ恥知らずになるってこと?」
「それだけならまだ良い……」
老魔術師は震える声で続ける。
「羞恥を失えば、人は欲望のまま行動するようになり……
争いは増え、礼節は消え、社会秩序は崩壊し……
文明が滅びに向かうのですじゃ」
蓮「羞恥ってそんな大事だったの!?ただの心のブレーキじゃなくて!?」
老魔術師「むしろ“文明の発明そのもの”なのです。
羞恥があるからこそ、他者を思いやり、
明日を気にし、秩序を守ろうとする。
羞恥を奪われれば……世界は獣の楽園になりますじゃ」
蓮「……つまり人類全員、恥を失って暴走しかけてるってこと?」
王女「はい。世界はすでに崖っぷちなのです」
蓮は珍矛を見下ろす。
「で……なんで僕がタオル一枚で戦って世界を救わなきゃいけないワケ?」
老魔術師は蓮の腕をそっと掴んだ。
「勇者殿。あなたこそ――失われゆく“羞恥の源”を取り戻す最後の希望なのです」
蓮「だからなんで僕の羞恥頼りなの!?もっと普通の方法は!?」
老魔術師は震える声で続ける。
「珍矛は……
世界唯一の“羞恥を力に変換できる神器”。
もとは人類が“羞恥心”そのものを守るために作り出した、最後の希望……
人類の大事な大事な“象徴”ですじゃ」
蓮「象徴の言い方どう考えても狙ってるよね!?」
王女「勇者様……珍矛は、人が“恥ずかしい”と感じる尊さを守るために生まれた聖槍。
それを扱えるのは……羞恥を正しく抱きしめられる方だけなのです」
蓮「抱きしめたくないんだよ羞恥はぁ!!」
老魔術師は静かに頭を垂れた。
「どうか……魔王の呪いを打ち払ってくだされ。
人々の羞恥を取り戻し……文明を救えるのは、
“脱衣強化系勇者”であるあなた以外におらんのです……!」
蓮は沈黙し、珍矛を握りしめる。
(……こんな理由で世界救うなんて聞いたことないよ……
いや、聞いたことないけど……誰もやらなきゃ、ほんとに世界が終わる……?)
王女はそっと微笑んだ。
「勇者様……あなたの“珍矛”が、世界を救うのです」
蓮「言い方!!でも……やるしかねぇのか……!」
タオルを握りしめ、蓮は天を仰いだ。
「……わかったよ。
恥ずかしくても、裸同然でも……
世界を守るためなら!」
老魔術師「おお……!!」
王女「勇者様……!!」
蓮「でも旅の最中にタオル落ちても絶対見ないでね!?絶対だからね!?」
王女「努力します!!」
老魔術師「わしは老眼でな……見えん!」
蓮「老眼だけどしっかり反応してたじゃん!!」
――こうして、
“羞恥を取り戻す勇者”の旅が始まった。
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