世界一可愛いモフモフが怠け者ご主人様に尽くす件

暁 黎

第1話 朝です!

リンリンリーン

目覚めしの音が、けたたましく暗い室内に響き渡る。

ランはぱっと目を覚ますと、ベッドの上から飛び降りた。冷たい木の床を走り、窓枠に手を掛ける。

ぐいっとカーテンを引っ張ると、冷たい朝の光が差し込んだ。ついでにボロいカーテンの裾に穴が空いた様な気がするが、まあ、御愛嬌であろう。

 そして再びベッドに戻ると、薄い布団の中に更に潜っていこうとする男の姿があった。

『もうっ!』

耳元に口を寄せ、すーっと息を吸う。

『起きて下さい、ご主人様!もう、時間ですよー!』

思いっきり耳元で叫ぶと、男はもぞもぞと布団の中で蠢いた。しかし、勿論起きない。

季節は初冬。まだ雪は降らないが吐く息は白い。ボロい洋服一枚で曝されるには冷たい空気だ。ご主人様もランの様に、真っ白なモフモフの毛を着込めばいいと思う。

いや、それよりも。


(いけない。このままではご主人様がわたしのご飯を作る時間が無くなってしまう。)


死活問題である。

ご主人様は、朝はかったるいと朝食を抜いて出勤するが、育ち盛りのランは常に空腹だ。

一食だって、抜く事はあり得ない。


『よし、こうなったら。』

布団の中に首を突っ込み、男の顔をペロペロと舐めた。

汚い男の顔は御免だが、敬愛するご主人様の顔なら、多少酒臭くても問題無い。

「んんんん、うん?ランか・・・。」

漸く、男は目を細く開けた。完全に寝坊けているようだ。

「俺に起きろって言っているのか?」

『そうです、そうです。もう、時間ですよー!』

「お腹空いたのか。そうだね、ランにはご飯作ってやらないとね・・・。」


そう言いながら、再び重い瞼を閉じてしまった。


『ギャー、寝ないで下さい。もう起きないと。ああ、出勤の時間がぁ。』


更に激しく叫びたてると、男はランの体にぐいっと腕を回して胸元に抱き寄せた。

汗の匂いと酒の匂いと、嗅ぎ慣れた匂いが鼻を満たす。男はチクチクする顎をランの頭に載せ、ふわふわする毛をそっと撫でた。

「もうちょっと、もうちょっとだけ。」

『ああ〜。』


 これはマズイ、マズイパターンだ。ご主人様に撫で撫でされると、ランの心はトロケてしまう。

 もうちょっとだけ、寝かせてあげないといけない様な、もうちょっとだけ一緒に寝たい様な気持ちになるのだ。


『ご主人さまぁ〜、ランは、ランはでも、お腹ペコペコなんですよぉ〜。』

小さく抗って、濡れた鼻先を男の頬に押し当ててみる。

更にぎゅっと手に力が込められる。ご主人様の体温がぬくぬくとランを温める。

ランはため息を吐いた。


今日は諦めて、このまま一緒に寝るしかない。

そっと胸元に顔を寄せて、ランは目を閉じた。仕方が無い、大好きなご主人の我儘だ。

今日は、今日だけは許して上げよう。

お腹空いたけど。


願わくば、ご主人様が起きた時にランのご飯を忘れないことを。

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