ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―
大西さん
「ムネモシュネの記録」
これを読んでいるあなたへ。
私の名前は、佐々木凛。
これを書いているのは――いつだろう。日付の感覚が、もうない。カレンダーは数ヶ月前に破り捨てた。時計も、とうに止まっている。
ただ、季節だけは分かる。雪が降っている。東京の空から、静かに、白い雪が降っている。
人は、何のために記憶するのだろう。
何のために、過去を残そうとするのだろう。
私は、25歳だった――いや、今も25歳なのだろうか。もう分からない。
人間の脳が、どうやって自己を認識するのか。どうやって、「私」という感覚が生まれるのか。
それを、知りたかった。
でも、知りすぎた。
私たちは、記憶したかった。愛した人を、忘れたくなかった。美しい瞬間を、永遠に残したかった。
だから、記録した。
ビデオテープに。カセットテープに。MDに。フロッピーディスクに。
私たちは、知らなかった。
記録されたものは、ただの情報じゃないことを。
私たちは、記録に溺れた。
記憶を、外部化しすぎた。
個を、失った。
それが、終わりだった。
疲れた。
もう、ペンを持つ手に、力が入らない。
外は、まだ雪が降っている。
きれい。
でも、寒い。
とても、寒い。
誰か――
誰か、いませんか――
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