第4話 ひょっとして凄い人?

「……ぐっ」



 ともあれ、争奪戦ゲーム開始スタート

 開始の笛とほぼ同時、一斉にカウンターへと向かう夥しい数の生徒達。……ぐっ、出遅れたか。


 ……だけど、ここで引くわけにはいかない。どうにかこうにか群衆を押しのけ間隙をすり抜けカウンター手前まで到着。すると、正面に映るバスケット――10個ずつ入ったバスケットが5個、間隔を開けてカウンターに置かれているのだけど――ともあれ、正面のバスケットに一つだけ残って……よし、あと少し――


「――うわっ!」


 あと少し……最後の一つに手が届かんとする寸前――卒然、誰かと肩がぶつかり尻餅をつく私。……いや、ぶつかったんじゃない。これは、どう考えても――



「――悪いな、嬢ちゃん。でも、規則ルールには反してねえんだ。悪く思うなよ?」


「……ぐっ」


 悔しさを滲ませつつ、さっと立ち上がり上方へ視線を向ける。そこには、何とも貫禄の漂う精悍な顔付きの男子生徒が。……えっと、ほんとに高校生? いや、制服だし間違いないんだろうけど……でも、申し訳ないけど控えめに見積もっても大――



「……おい、あれって『帝王』じゃ……」

「……やっぱり、今年も出てきたか」


「…………えっ?」


 そんな戸惑いの最中さなか、少し遠くからそんなやり取りが微かに届く。……えっ、帝王? それって、ひょっとしてこの人のこ――



「――おいおい、嬢ちゃん。ひょっとして俺のこと知らねえのか? この争奪戦ゲーム開始から10年、一度も欠かさずこいつを手中に収めてきた『帝王』たる俺のことを」

「いやどんだけ留年してんの!?」




「……あっ、いや……その、すみません……」


 直後、ハッとして謝意を述べる私。……しまった。いくら敵とは言え、どう見ても先輩相手にタメ口は流石に不味まず―― 


「――ほぉ、威勢が良いじゃねえか嬢ちゃん。気に入ったぜ」


 ……うん、気に入られちゃったよ。その快活な笑顔を見るに、どうやら本心で言ってくれているようで。……えっと、実は意外と良い人? 


 ……ただ、それはともあれ――


「……えっと、規則ルールに反していないってどういうことですか?」


 そう、目を逸らさず問い掛ける。この争奪戦ゲームの詳しい規則ことは知らないけど……確か、暴力の類いは基本的に禁止されていたはず――


「――おいおい、何寝ぼけたこと言ってんだ嬢ちゃん。正当なショルダーチャージは反則ファールにはならねえ――そんなもん、サッカーじゃ常識だろ?」

規則ルールってサッカー仕様だったの!?」


 そう、本日何度目という驚愕に目を見開く。いやサッカー仕様だったの!? じゃああの笛ってもしやホイッスル……えっと、ホイッスルで合ってるよね? 


 ……いや、まあそんなことよりも――


「……いや、サッカー仕様なんだったら、そもそも手を使っちゃ駄目ですよね? 確か、足しか使っちゃ駄目なはずじゃ……」


 彼の右手――正確には、その中の焼きそばパンを指差しつつ尋ねるも、ちょっと不安になる。……あれ、頭とかなら使って良いんだっけ? ただ、いずれにせよ手は使っちゃ駄目なはず――



「……いやいや、嬢ちゃん。食べ物を足で扱うのは、流石に作法マナーとしてどうかと思うぞ?」

「急に真っ当なこと言わないでよ!!」




 ともあれ――目的のブツを得て満足したからか、どうしてか本当に私を気に入ってくれたからか、その後もこの争奪戦ゲーム規則ルールを丁寧に教えてくれる帝王さん。……うん、やっぱり良い人? 

 そして、どうやらその中にオフサイドという規則ものがあるようで。……そう言えば、どっかで聞いたことあるような。


 ともあれ――当争奪戦ゲームでは長方形の区画を示す白いラインが引かれており、区画そこを越えて他の選手を追い掛けるのは禁止とのこと。……まあ、そうじゃなきゃ何処までも追い掛けられちゃうしね。

 そして、驚くべきことに内部なかの生徒から外部そとの生徒へパス――即ち、パンを放り投げて渡すことは認められているとのこと。……うん、投げるのは良いんだ? 何か釈然としないなあ。


 まあ、ひとまず不服それはさておき……どうやら、それも無条件でというわけでなく、一定の制約――パスの受け手と同列、あるいは後方に一人も敵がいなければ、残念ながらそのパスは認められないといった制約があるようで。


 ……うん、分かりにくいにも程があるね。自分でも思う。なので、ざっくり図を用いると――

 


        敵     敵

         敵    味方

   ―――――――――――――――――

  | 敵 敵 敵 敵 敵 敵 敵 敵 |         

  |  敵 敵 敵 敵 敵 敵 敵  |

  |        自分          |

   ―――――――――――――――――

 

 例えば、この状況なら『自分』から『味方』へのパスは可だけど――


     味方       

         味方  味方

   ――――――――――――――――――                   

  |  敵 敵 敵 敵 敵 敵 敵 敵 |

  |  敵 敵 敵 敵 敵 敵 敵 敵 |  

  |          自分        |

   ――――――――――――――――――


 例えば、この状況だと『自分』から『味方』へのパスはオフサイドと看做され無効――パンの所有権を失うことになるとのことで。……それにしても、我ながら何とも雑な図解。こんなので、いったい何が伝わるのか……あと、敵ってなんだ敵って。

  


 





 

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