死に戻る主人公、何度も殺される運命、愛に病んだ末に主人公を殺すヒロイン、運命を変える為に、主人公は全員と子供を作る事にした。現代伝奇ファンタジー、ヤンデレハーレム

三流木青二斎無一門

輪廻蝶が羽搏けば

その日、夜であるのに、何処までも綺麗な黒い蝶を見た。

翅の模様など無い、何処までも真っ黒であるのに、夜に同化する事も無く、翅を羽搏かせて、空を自由に翔けている。


たかが虫如きに、目を奪われる程に人生退屈はしてないが、そんな俺でも魅了された。

あれほど綺麗で、こんな月すら浮かばない夜であるのに、蛾ではない蝶が動いているのならば、きっと、高値で売れるだろうと、そう思いながら俺は歩く。


蝶は紫の鱗粉を飛ぶと同時に散らしていく、俺はどうやら、その鱗粉を吸ったらしい。


後に分かった事だが、その蝶は怪異に属される生物だった。

我が怪異を対処する名ばかりの教育機関、八十枉津学園やそまがつがくえんの図書館で三日三晩探した結果、その蝶の名前は『輪廻蝶りんねちょう』と呼ばれる、一度出会い、その鱗粉を摂取してしまえば、時間が固定されてしまうと言う怪異だった。


つまり、俺があの日出会った2006年9月1日から、俺がいつ死んでも、その時間に戻されてしまうというもの。

閉ざされた輪廻。永劫に続く死後転生。

故に、『輪廻蝶』と名付けられたのだとか。


『輪廻蝶』の怪異から逃れる方法はただ一つ。

生き続ける事だ。輪廻蝶から出会い、6年と6月6日の時間を通過すれば、元に戻るのだとそう書かれていた。

生きるだけならば、簡単な事であるかも知れないが……。


俺は祓ヰ師はらいしだ。

魔を狩る事を生業としていて、理由があって、この職業を辞める事は出来ない。

つまり、常に死と隣り合わせの場所。何時死んでもおかしくない状況下で、俺は過ごしている。


あと。

ついでに言うのならば、最早、手遅れな状況だ。

ある界隈では、『ろくでなしのすけこまし』など俺はそんな名前で呼ばれている事がある。

その名の由来は、まあ、お察しの通り、女との遊びが過ぎた屑野郎ってワケで。

『輪廻蝶』を見る前に、俺は既に、複数の女と持ちつ持たれつと言うか、胃がもたれると言うか、まあ、何時刺されても可笑しくない状況に、自ら刺されに行っている状態になっている。



「あな、ッあな、貴方がッ悪いのよ」


泣きながら刃物を手を持つ女性の姿が確認されると同時に、俺は自らの腹部を確認した。真っ白なシャツには、赤い花の様な模様がじんわりと花弁を伸ばしていた。

手で触れれば、べったりと蜜が付着する。香ばしく錆びた鉄の匂いをした蜜は、言ってしまえば血だった。


俺は刺された。思い切り腹部を突き刺されて血を流している。

激痛が刺された箇所から、電撃の様に指先から舌先まで痛みとして痺れ出した。


「八峡、貴方が、私、私以外の女とッ」


俺の名前を呼びながら、刃物を血で濡らして、手ですらも、赤い血に濡れている彼女を見詰めた。


「くはッ……あ、痛ェ、なぁ。どうせ殺す、な、ッらよ」


喋るだけでも苦痛だ、それ以上は声に出す気にはなれないから、俺は早々に命を諦める事にして、大きく腕を伸ばす。


「やれよ……ひゃッは」


口から血を流しながら、喉奥に絡み付く血の味を味わい、俺は彼女の目をじっと見つめながら観念する。


「お前に殺されんのも、悪くねぇ」


死にゆく最後に告げる殺し文句、いや、この場合は死に文句か?はは、今となってはどうでもいい。

けど、俺の言葉に対して、強く、刃物を握り締めて、涙を流して俺の方に近づいてくる。


「貴方が、……そんなんだからッ!」


そういって、俺の腹部を再び突き刺した。

激痛が再び走る、血が噴き出して周囲に飛び散る。

赤い血の溜まりが、さながら空に浮かぶ星の様に見えた……いや、そんなワケねぇだろ。

そう思いながら俺は死んだ。

通算、三百くらいか?そのくらいを超えたが数えてない。

そのくらい俺は死んで、……そして、『輪廻蝶』の恩恵によって、いや、呪いによって……俺、八峡やかい義弥よしやは再び9月1日へと舞い戻る。


――― ―――     ―――

 ――― ――― ―――

        ―――

――― ―――        ―――



「やあ。おはよう、我が友よ」


目が覚めると同時に、部屋の中で本を読んでいた男が俺に声を掛けた。

俺は体を起こすと共に、その男の方に視線を合わせる。

なんとも、憎たらしい程に顔が整った男が優雅に足を組んで本を読んでいる様は、なんとも目に焼き付く。

俺は蒸れた後ろ髪を思い切り掻きながら、野郎に対して現状況での感想を述べる。


「何度も言ってると思うけどよぉ……なあイヌ丸ぅ、テメェ、服着ろよ」


イヌ丸。

その男のあだ名だ。

正式な名前、本名は永犬丸えいのまる統志郎とうしろう

こいつは理由は伏せるが、とにかく露出狂だ。

つまり、部屋でも外でも、全裸になる事が多い。


「おや、これは失礼をした……どうりで肌寒いと思っていたんだ」


芝居がかった口調でそう言いながら、俺のクローゼットから適当な服を取り出してきやがる。


「おい、お前の部屋、隣だろ、俺の服を着るんじゃねぇよ」


「ん?我が友よ、服を着てはダメなのかい?」


「俺の服を着るなと言ってんだよ、さっさと着替えてこいや」


イヌ丸は両手を軽く上げて、やれやれと言いながらその場から退場した。

そんなイヌ丸に俺はため息を吐きながら起床する。


「……これで、何度目だっけ?死んだの」


通算三百は超えてるか。

もう最初の内は時間が経過したり、激痛でショック状態からの記憶障害起こったりで忘れちまう事が多かったけども。


しっかし、なんで殺されたんだっけか?えぇと……確か、七人同時に子供を孕ませたら、なんで私と子供を作ってくれないのとかで、殺されたんだっけか?

あぁ、確かそんな感じだ。


「しかし、珍しいな……」


基本的に、監禁されたり、四肢捥がれたり、内臓喰われたりされたが、今回は大人しめで、普通に刺されて死んだな。

しかも、今回は他の女から攻撃される事も無かったしな。


「……なんで攻撃されなかったんだ?」


いや、なんでだろうな。

普通だったら、他の女が俺を妨害してきたりするもんだったが。


「……腹ん中にガキを仕込んでたからか?」


俺はある結論に至った。

そうか、さっき言ってたな。

七人同時に子供を孕ませたから、その七人だけは動く事が無かった。

そうか、そういう事か。

あいつらを孕ませた事で、その分、俺に注ぐべき愛を、子供の方に費やしたってワケなのか。

それによって、狂気に近い感情を、何とか抑える事が出来たって事だ。


「なるほどなぁ……つまりは」


先に俺を殺す仕込みをする前に、俺が奴らに仕込めば良いって事なのか。

そうすれば、少なくとも俺があの女たちに殺される事は無いという事だ。

そうと決まれば、さっさと仕込みに行くとするかね。


「やあ、待たせたね。我が友よ」


「……それ俺のシャツ、それ俺のズボン、それ俺のパンツぅ!」


シャツはボタンをつけず、ズボンはただ履いただけで、チャックからはパンツが見えていた。そして、それら全ては俺が着ていた衣服だった。


俺が叫ぶと同時、部屋にまた誰かが入って来た。


「すいません、先輩。……兄さんがまた、何かしましたか?」


柔らかな口調で言いながら、俺の後輩が入って来た。

黒髪に、肩元で切り整われたセミロング、耳に髪をかける仕草がなんとなくエロく感じる、ワンコだ。

ワンコ、こちらもあだ名だ。

永犬丸士織。

露出狂である永犬丸統志郎の妹だ。


「おう、ワンコ。俺の服を着やがったんだよ、コイツ」


「我が友は、人が勝手に着た衣服は二度と着たくないと思うタイプかい?」


「違ェよ。どうせお前脱ぐだろ、街中で。それするから俺の着る服が少なくなってんだよ、街中で脱ぐからッ!」


別にイヌ丸が着ていた服を着たくないワケじゃない。

だが、俺の服がコイツの露出狂による性癖によって道中で脱ぎ捨てられ、それを回収しなかったら無くなってしまうから、コイツには俺の服は渡したくなかった。


兄とは違って妹はとにかくマシな部類だと俺は思う。


「つか、なんで俺の衣服がお前の部屋に紛れ込んでんだよ」


「ん?あぁ、それは簡単な話だよ、我が友よ、我が妹がキミの衣服を回収してボクの部屋で嗅いで」


「兄さん……兄さんッ!!」


口を塞ぐワンコ。

今更口を塞いでも、聞こえているんだよな。

あー、まあ、そういう性癖もあるわな、コイツも一応は、俺の事好きらしいし、コイツに殺された事も多々あるしなぁ。

……まあ、それくらいの性癖なら、許容範囲だろ。


「……まあ、取り合えず、どうせ脱ぐんだから自分の服を着ろよイヌ丸。あと、その服返せよワンコ」


「……はい」


恥ずかしそうに頬を赤らめて頷くワンコ。

俺は腹が減ったから、食堂へと向かう事にした。

俺とイヌ丸、そしてワンコは同じ『あさがお寮』に住んでいる。


俺は三階から一階へと降りている時、二階で女と出会った。

偶然にも居合わせた時、俺はその鮮やかな琥珀色の瞳と目を合わせる。

艶のある黒髪を、腰元まで伸ばし、猫の様に鋭い目つきをした彼女は俺と顔を合わせると共に頬を赤らめながら目つきを鋭くした。


「八峡ッ」


歯を食い縛らせながら、俺の名前を呟く。


「おう、お嬢」


俺は軽く手を挙げて挨拶をする。

彼女は俺にそっぽを向いて、そのまま階段を下りて行った。

気の強い女性な事だ、彼女は、贄波璃々と言う。

祓ヰ師と言う職業の中、御三家と呼ばれるお偉い家系である。


「出会い頭は、少し腹に響くわ」


俺はそう言いながら腹部を摩る。

腹部を摩った場所は、俺が、彼女に刺された部分だった。

前回の死ぬ間際、涙を流して俺を殺したのは、他でもない、お嬢だった。

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