こもれび巡査 三枝賢

第1話 けんさんの一日

朝の吉祥寺駅前。

通勤ラッシュで慌ただしい時間帯でも、三枝賢は落ち着いた足取りで交番へ向かっていた。

彼の勤務先は 井の頭公園のすぐそばにある小さな交番。

公園を訪れる人々や、周辺の商店街・住宅街からの相談を気軽に受ける、町の守り所だ。


「おはよう、けんさん! 今日もよろしくねぇ」

商店街の花屋の店主・川島が手を振る。

賢は軽く会釈した。


「おはようございます。今日もいい花ですね。…あ、店先に自転車がはみ出してますよ」

「ほんとだ、見てくれてありがとねぇ。けんさんはやっぱり頼りになるわ」


交番に着くと、田代巡査部長がコーヒー片手に声をかけた。


「賢、今朝は迷子の猫の相談が三件。あと駅前で小さなトラブルがあったらしい。まず公園まわりから頼むぞ」

「わかりました」


公園の入り口に差し掛かると、二人のサラリーマンが言い争いをしていた。

周囲の人々も落ち着かない。


「すみません、お話伺ってもいいですか」


賢はまず一人一人の言葉に耳を傾け、誰にも肩入れせず冷静に対応した。

10分後、二人は互いに小さく頭を下げ、別々の方向へ歩いていった。


公園を通り抜け、賢はいつもの喫茶店「猫町」で休憩。

店長の桐子がコーヒーを置きながら言った。


「また誰か助けたのね」

「え、どうしてわかるんですか」

「顔でわかるのよ。困った人を助けた日だけ、姿勢がちょっと変わるの」


賢は少し照れながらコーヒーをすすった。

この町には今日も、小さな出来事が溢れている。

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