探偵と六人の店長
瞳
探偵と六人の店長
「店長が……店長が………」
午後十時、閉店した花屋のバッグヤードで肩を振るわせて泣く従業員の女性の背中を、探偵は優しく撫でた。
「お待たせしました、これが現場の写真です」
現場を担当していためっちゃコワモテな刑事が、探偵に写真を渡す。
「ありがとう」
探偵は立ち上がる。黒髪ツルツルウルウルロングヘアがサラサラと揺れ、いかにも探偵といったような茶色のコートがヒラヒラした。
写真を見て目を細める探偵に、刑事が説明をする。
「被害者はこの花屋『フラワーカラフルハッピーニョキニョキ』の店長です。バックヤードで何者かに頭を殴られ、倒れていたところを発見されました。そして、ダイイングメッセージですが……」
写真をじーっと見る。頭から血を流してうつ伏せに倒れている店長は、自分の頭から垂れた血で床に文字を書いていた。
「……【店長】と書いてある」
「そうなんです」
「被害者は店長なのでは?」
「そうなんですが……この店の従業員たち……ちょっと変わっていまして……」
刑事は現場に集められた五人の従業員を指して言う。
「左から副店長、支店長、主店長、元店長、新店長です」
「なるほど。これは面白くなりそうだ」
探偵はニコッとした。
◇◇◇
まずはその場で聞き取りが始まった。
「ではこれより一人ずつお話を聞いていく。私はメイ探偵だ。よろしく」
「自分で名探偵呼びかよ」
支店長がダルそうに言った。午後十時という遅い時間に職場に集められた面々は、不安そうだったり眠そうだったり不機嫌そうな顔をしており落ち着きがない。
「すまない、名前がメイなのだ。迷宮のメイ」
「こいつでほんとに大丈夫なのかよぉ!刑事さぁん!」
支店長が金切り声を上げた。
「メイ探偵は人が殺されちゃった時とかにすごい頼りになるんだ。問題ない」
「あんたも言い方があんだろ、言い方が……」
「まあ、好きなように呼んでくれて構わないよ。では、とりあえず皆さん一人ずつに話を聞いていくとしよう。犯行時刻は今日の午後九時頃と思われる。その時間、何をしていたか教えて欲しい」
「第一発見者の副店長です……私は……今日はずっと店長と一緒に働いていて……お店を閉めるところまで店長と一緒にいました……店長と上がる時はいつも私の車で一緒に帰っているのですが、今日はたまたま店長がカードキーを忘れちゃって、お店に戻っていって……なかなか帰ってこないと思ったら……こんなことに……!!これは……事件……!!これは事件よ!!!事件よー!!!!」
「副店長、落ち着くんじゃ」
元店長が副店長に優しく声を掛ける。
「ん、大丈夫かな?」
「すまんな、探偵さん、副店長はパニックになりがちなんじゃ」
「まあ、被害者と一緒に帰るような仲なら無理もないだろう。この花屋は入退室の時にカードキーがなければいけないらしいね。データも残ると聞いている。監視カメラはないが、記録から調べられそうだ。では、次、支店長は何をしていたんだい?」
「俺はその時間は本社にいたよ」
「おや、この花屋には本社があるのかい?」
「いや、俺が家のことを勝手に本社って呼んでるだけだ。店長が『本社に帰ります、とか言った方が支店長っぽくてよくね?』って言ってたからな。そうしてやってるんだ。今日は一日中本社で寝て……いや、会議してたよ」
「なるほど。何かアリバイはあるかな?」
「ちょうど午後九時ごろに宅急便を受け取ったぜ。インターホンに履歴もあるし、それがアリバイになるだろうよ」
「ありがとう。では次、主店長、君は何をしていたかな?」
「ぬはっ!僕はっ!今日は午後五時まで働きっ!そしてジムに行った!ご覧の通りムキムキだっ!君もムキムキしようじゃないかっ!」
「すまんな、探偵さん、主店長は筋肉狂いなんじゃ」
白いタンクトップから筋肉を見せつける主店長を横目に、元店長が言った。ちなみに今の外気温は五度だ。
「そうか、とても筋トレが好きなんだね。では元店長はどうかな?」
「ワシは今日『盆栽パラダイス★ジャパン』というイベントに出店しておった。これも仕事のひとつじゃな。家に帰ったのがちょうど午後九時ぐらいじゃった。家族と一緒にいたからそれがアリバイじゃな」
「そういうイベントにも出るのだね。では、新店長はどうだったかい?」
「わ、わ、わたしは……今日は主店長と一緒の午後五時上がりで……バックヤードに戻って……ハサミをしまって……バケツを洗って……棚に戻して……手を洗って……ロッカーを開けて……荷物を取って……エプロンを畳んで……お店を出て……車に乗って……」
「全て話してもらわなくて構わないよ。午後九時ごろは何をしていたかな?」
「ヒィィィ……! す、すみません……! 家に一人でいたので……!! アリバイはありません……! ふぇぇぇぇぇん!!」
「また新店長が泣いてしまったわい。すまんな、探偵さん、新店長は泣き虫なんじゃ」
「まったくだぜ……」
支店長が深いため息をついた。
「すまんな、探偵さん、支店長はみんなに振り回されがちなんじゃ」
「みんなありがとう。ひとまず現場を離れようか。今から鑑識が調べてくれるようだ」
◇◇◇
その後、探偵は別室で一人ずつ話を聞いていった。
「副店長、あなたは店長と仲が良いようだね」
「はい……店長とは大学からの付き合いでしたから……店長は昔からお花が大好きなんです。一人でこのお店を立ち上げて、こんなに大きな花屋に育てちゃうんですから、やっぱりすごい人です」
「そうなんだね。話してくれてありがとう」
副店長が部屋を出て、支店長が入る。
「で、次は俺ってわけか」
「君は店長のことをどう思ってるんだい?」
「どうって……普通にすごいと思ってるぜ。お前は『ベリースペシャルウルトラニョキニョキパワフルカラフル花屋コレクション』は知ってるか?」
「確か、素晴らしい花屋に贈られる賞のことだね? パリコレの花屋バージョンのようなものと聞いている」
「よく知ってんだな。さすが探偵だぜ。で、それを店長は何度も受賞してる。バックヤードの棚に金のスコップとかハサミとかバケツがあるだろ? あれは全部それの記念品なんだぜ?」
「そうなのか。トロフィーではなく、花屋にちなんだものが贈られるんだね。それはすごい」
「そうだ。毎年のように貰ってんだから、まったくすごいもんだぜ……本当に……なんでこんなことになっちゃったんだよ……!」
次は主店長に話を聞くことになった。
「僕の番が来たなっ!」
「君は店長のことはどう思ってるんだい?」
「店長っ! すごい人だっ! 未経験だった僕をっ! いきなり店長として雇ってくれたっ!」
「そういえばこの店は、なぜ店長ばかりいるんだい?」
「バイトよりっ! 社員よりっ! 店長と言われた方がっ! やる気が出るだろうっ! そういうことだっ!」
◇
「と、主店長から聞いたのだが、君も店長として雇われたのかい?」
元店長はゆったりと笑いながら話す。
「そうじゃよ。元店長という名前じゃが、別に元々店長だったわけじゃないんじゃ」
「じゃあなぜ元店長なんだい?」
「ワシは苗字が【元】なんじゃよ。ほら、ここに書いとるじゃろう?」
元店長はカードキーを裏返す。そこには顔写真と名前が書いてある社員証が入っていた。
「本当だ。そのまま、元店長になったというわけだね」
次は相変わらず今にも泣きそうな顔の新店長だった。
「わ、わ、わ、わたしは……! 店長のことが好きです! あ! 人として……ですよ! 断じて恋人とか……! そういうわけでは……! 確かに店長は美人ですけど……! 別にそういうわけじゃなくて! それは! ほんとに! もう! 私なんかじゃ! 店長に釣り合わないから! ほんとに! でも! 店長は」
「まあまあ、少し落ち着いてもらえるだろうか。この店のみんなが店長を慕っていることは、なんとなくわかるんだ」
「わ、わ、わたしも……店長のことは大好きでした……なのに……なのに……どうして……? どうして! どうしてー!!! ふぇぇぇぇん」
「メイ探偵、すみません」
新店長がまた泣き出してしまい、困っていた探偵のもとに、刑事がやってきた。先ほどの現場の検証結果が届いたようだった。
「私が伝えたことは、調べてくれたかな?」
「はい、その写真を見ていただければ……」
探偵は今までの証言と写真を照らし合わせた。
「なるほど。そういうことか。では、みんなを呼んでくれ」
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