ルヴァメイト~復讐しに行きますが、一緒にいかがですか?~
「「
本編
第一話
「おいでログ。今日はいい天気だから、外でお茶にしましょう」
そう言って優しく笑って手を引いてくれる母。
ついでに食べようとサンドイッチを持って外に出ると、母の言う通り空は青々としていた。
父も呼んで、家族三人仲良く昼食を取り、笑いあう。
仕事で忙しいはずなのに交流の時間を削らない両親。愛してくれているのだとしみじみ感じる。
そんなヒト達の元に生まれて、自分はなんて幸運なのだろう。
こんな平和な日々がずっと続けばいいのに。幼いながらにそう思う程、プロングの毎日は幸せで溢れていた。
しかし現実というのは残酷だ。思った通りに行く事の方が少ない。
プロングの大好きな場所は、一瞬で崩れ去る事になる。
嫌味なほどに青かった空が、段々と曇り始めたその時だった。
突然鳴り響いた轟音と共に地面が揺れ始めた。その揺れは立っていられない程のもので、プロングは思わず尻もちをついてしまった。
少しして揺れが収まったかと思ったら、今度は金属同士がぶつかり合う音が聞こえ始める。
それは戦いによって鳴る音なのだと、幼くてもそれくらいは分かる。
不安でたまらなくて、思わず母にしがみついてしまう。しかし母は不安を見せることなく、優しくプロングの頭を撫でた。
「大丈夫よ、たった一人相手に私たちの種族が負ける事なんてありえないわ」
母は大人しく隠れていようと全てのドアに鍵をかけ、再びプロングの元に戻って来た。
泣きべそをかくプロングの頭を撫でて優しく語りかけてくれる。
騒がしかった外が段々と静かになっていく。
脅威が去ったのかと少し気が緩む。家族は無事でいられるのだと。
しかし、次の瞬間には外を見張っていた父の呻き声が聞こえてきた。
父は反撃をしたのだろう。だがあっけなく負けてしまった。
人の気配が無く、静かな中で父の声だけが聞こえてくる。
「た、すけてくれ…。お願いだ。家族がいるんだ」
「家族がいるからといって、やって良い事と悪い事があるだろう」
命乞いも空しく、バッサリと切り倒される音が聞こえた。
その瞬間にプロングは頭が真っ白になった。父親が殺された。その事実を受け入れる事など到底できない。
体の震えが止まらない。怒りからか、恐怖からか。あるいは両方だろうか。
母も動揺したのだろう。よろめいた際に床の軋む音が響いた。
その音に気付いたのか、カギをしていたはずの扉をいともたやすく破壊し、中に入ってくる。
全身が血にまみれ、片手には剣を握った男。プロングにはその男が悪魔のように見えた。
「…まだ生き残りがいたのか」
殺意を向けられるというのはなんと恐ろしいことか。プロングはあっという間に体が硬直してしまった。
逃げ出したいのに動けない。そんなプロングの前に母親が立ちはだかった。
「逃げなさいプロング!」
母がプロングを暖炉の方に突き飛ばす。その瞬間にプロングの目の前には赤色が広がった。
母はよろめき、後ろへ下がる。そしてプロングのすぐ傍まで来ると、男に聞こえないよう囁いた。
「そこの暖炉は、いざという時の隠し通路になってるの。なんとかあなただけでも、」
男は逃がさないとばかりに突進してくる。
剣を突き立て、母の後ろにいるプロングごと貫こうとしているのだ。
プロングは反射的にしゃがみ込む。彼の体は母のスカートに隠れて見えなくなった。
男は迷わず母の鳩尾を貫く。その勢いは殺される事無くプロングの頭にかすり、痛みが走った。
ゴトリと何かが落ちる音と共に母は倒れこむ。プロングは母のスカートで体を隠しながら共に倒れた。
母の血が床に広がっていく。温かい血液は徐々に冷えていき、体から熱を奪う。
温かさを失っていく母。プロングは泣きたくなるのを何とか堪える事しかできなかった。
男は冷たい目で二人を一瞥すると、足音もなく部屋を出ていく。
その異様な殺気を感じなくなるまで待った後、プロングは切られた際に落ちた自身の“角”を持って外へ急いだ。
暖炉の先は誰も近づかない森のへとつながっていた。
隠し通路があるなんて一生知りたくなかった。なんて今更言った所でもう遅いだろう。
頭からの出血が止まらない。致命傷では無いものの、このまま放っておく事はできない。
たった一突きで母の後ろにいる者まで切ろうとするなど、あの男は正気ではないだろう。
ひとまず体を休める為、少し離れた位置にあった洞窟に潜り込んだ。
落ち着いて、先程の出来事を思い返す。
父の呻き声。肉が切られる音。目の前に広がる母親の血。
そして何より、あの男の目が頭から離れない。
何故家族が理不尽に殺されなければいけなかったのか。
戦う意思のない者をあそこまで無慈悲に殺すことが出来るのはなぜか。
一度考え出したら止まらない。グルグルと先程の出来事が頭を回る。
自身の手の中にある角。これはプロング達の種族特有のものだと母に教えられた。
恐らく同じ種族の者も全滅してしまっているだろう。
あそこまでの強さの男と戦える者などいなかった筈だ。
悔しさで唇を噛み締める。血が出てきてしまったが痛みはもう感じない。
自分達の種族、ましてや大切な家族を殺したあの男を許す訳にはいかない。
プロングの目にはもう、あの男しか映っていない。
少しすると眠気がプロングを襲ってきた。血を流しすぎたのだろう。しばらくは休息が必要だ。
「……父さま…母さま」
冷たい床に寝転がり、体を丸める。
もう二度と会えない大切な家族。目を瞑ると幸せな記憶がよみがえる。
『おやすみなさいプロング』
夢の世界へと入る瞬間、二人の声が聞こえた気がした。
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