夜灯る光
化琉壮一
馴染めない学校
長月十五日。私はうつむき、重い足を引きずりながら学校へ向かっていた。あそこは、私の心をゆっくりと空っぽにしていく場所だ。笑い合える友達なんておらず、笑顔の記憶さえ遠く霞んでしまった。親にはこんな姿を見せられない。心配させたくなかった。
自然とため息が漏れる。それは胸の奥に沈んだ暗さを、少しずつ外へ押し出すように静かに広がっていった。
「あの頃は、あそこにいたときは楽しいって思えてたのにな…」
かすかにこぼれた独り言はすぐに風に消えたけれど、心の奥では鋭い痛みが響いていた。馬鹿馬鹿しいと自分を笑いながらも、その痛みだけはどうしても無視できない。
校門をくぐり、形式的な挨拶を交わす。にぎやかな学校の空気とは裏腹に、私は誰とも言葉を交わすことなく教室を目指した。楽しそうに話す人たちの姿を見るたび、自分と比べてしまう。胸にのしかかる情けなさは、今日も変わらずそこにあった。
教室のドアを開けると、笑い声と話し声が一気に押し寄せてくる。窓際の席へ向かう私は、まるで教室の中でひとりだけ宙に浮いているような感覚に襲われる。転校してから数か月。三年生の夏にはもう、どのグループにも入り込む隙はなかった。話しかけてくれる人もいないし、声をかける勇気もない。私はただ、壁のように静かに席へ座るだけだった。
ノートを開くと、ペンを握る手が少し震えていた。隣の席で上がる笑い声に胸が縮こまり、「あの中に自分はいない」という事実を突きつけられる。そんな瞬間は、何度経験しても慣れることがない。
「そこ、授業中だぞ。静かにしなさい。」
先生の声が笑い声の方へ飛ぶ。叱られている彼らでさえ、私には近づけない世界の住人に見えた。
授業が進む中、先生が質問を投げかける。積極的に手を挙げるクラスメイトの表情は明るくて、迷いがない。私は手を挙げることも目を合わせることもできず、ただ教科書へ視線を落とす。答えられなかった自分への小さな失望が心の中に静かに積もっていく。
休み時間、廊下を歩くクラスメイトたちの輪がいくつもできていく。そこへ一歩踏み出そうと足を動かすけれど、喉が張りついて言葉が出ない。誰かに笑顔で話しかけてもらえるのを待つしかできない自分が、ほんの少し嫌になる。
窓の外には、校庭を走り回る子たちの姿。あの中に自分が入れたら、
——そんな願いが胸に湧き、熱を帯びるけれど、現実は変わらない。私は今日もまた、孤立したまま、流れていく時間をただ見つめていた。
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