凪にて
野上作弥
第1話 海辺の人
人は自分自身がかつて嫌悪していたものになっている事も少なくない。
女性の声が話始めた。
私の体験と三つの手記、その他の参考資料を元に記録を残しています。
今、千葉県にある海岸にいます。
私にとっては重要な記憶、主に東京が閉鎖されて二年経ってからの事について残します。
まずは事の発端から話します。
突如として人が人を襲うようになる事象が起こりました。噛まれる、ひっかかれる、襲撃者に襲われた人は、襲撃者になります。
そう、ゾンビです。
活性異常者と命名されました。もはや屍と化した人々。私は屍と呼びます。
屍たちは人を本能的に襲い、数を増やしていきました。
屍を活動停止されるには頭部を破壊するしかありません。
屍と化し狂暴化した人々は次第に数を増やし暴徒と化していきました。
突然変異を起こした変異個体も存在しました。多くの個体は理性を喪失し行動しますが変異個体は異なりました。強靭な肉体を持つもの、生前の言葉を話し、ある程度の知能を持つものもいました。
この事象は今だ科学的には解明されていません。
事態は突如として世界で同時多発的に起こりました。
日本で最初に報道、ネットで出てて確認されたのは神奈川県で起きた殺人事件。
その後は主要都市全てで発生していき被害を拡大していきました。
大混乱で72時間で全国の救急、消防、警察がパンクし機能停止。
疫病によるものなのか、テロ攻撃なのか、地獄が満員になったとか、神の怒りなのか。
事態は急速に拡大し、特別緊急事態宣言が発令され自衛隊による措置が行われました。
封鎖や隔離。
状況の悪化が進むにつれてほぼ戒厳令なのではと言う人もいました。
主要都市全ての機能が停止し首都東京も閉鎖に至りました。
事態の収集は不可能となり世界とも日本国内でも屍と化していない人々の物理的な距離感も事実上の分断状態が確定したのは言うまでもありません。
地獄が満員であるなら定員割れしてほしいものです。
私は発生直後、避難先に指定された臨海部安全地域にすぐ避難しました。正式名称は東京湾岸防衛管理区。
東京臨海部は周囲を東京湾に囲まれていることもあり発生初期に封鎖措置を行い、運よく安全地域化することが出来た場所の一つです。そこでしばらく生活していました。
橋や道路、線路はすべて、ゲート、防護壁で封鎖することで東京中央部と接触を立ち、埋立地だけを独立させる地形を作る事で屍の侵入を防御していました。
制限付きで電気、水道、ガスのライフラインは確保されていました。
まだそのころはインターネットも使用できていて、政府若しくは必要な権限を持つ人間が連絡手段として使用している状態でした。混乱を避けるための情報統制です。
全国各地に安全地域、コロニーは存在し連絡を取り合い、ヘリや飛行機で移動して物資輸送で協力し合っていました。
その時は、主要都心部は壊滅状態しているものの封鎖、隔離に成功している市町村はまだ存在していました。自衛隊駐屯地内も避難の受け入れを行っていました。その他に離島や海上の船、主に山間部で独立した生存者たちのコロニーが各地に複数点在していました。
しばらくは安全地域とそれ以外の地域での状況も沈静化と悪化を繰り返しダラダラと続いていていく状況でした。
次第に国外からの支援物資も減っていきました。
私たちがしばらく住んでいた東京臨海部にある安全地域での生活はある日、突如として終わりを迎えました。その後に長いモラトリアムがあるとは思いもよりませんでした。
多くの人が死に、家族、友達、よくしてくれた人は皆いなくなりましたが私はまだ存在してる。
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