side 空
俺の言葉に先輩は何かを考えている。
「やっぱり無理ですよね、何か、すみません」
「いや、いけるよ。空ならいける……でも」
「でも……何ですか?」
「橋崎は、嘘つきだ。嘘つきは、人の嘘を見破る事が出来る」
「俺が落とすのが嘘だとバレるって事ですよね?」
「違う」
先輩は、眉間に皺を深く刻むように寄せる。
「空、先生が好きなんだよな?」
「はい」
「そうだよな。だから、先生の為に復讐したいんだよな?」
「はい」
「その気持ちはよくわかる。でもな、橋崎は嘘がわかるって言っただろ?」
「はい」
「だから、空には無理だ」
「どうしてですか?」
「橋崎を落とす為に、先生を傷つける事になってもいいのか?」
先輩の言葉に俺は、黙ってしまう。
橋崎友姫を落とす為に、どうして先生を傷つける事になるんだろう。
「敵を欺くには味方からって言葉があるだろう。もし、橋崎と歩いている姿を見られても空は先生に本当の事を言えないんだよ。橋崎を落とす為には、本気で橋崎と向き合わなくちゃいけないんだ。だから、やめとけ。好きな人を裏切って悲しませる事になるぐらいなら、最初からきいちゃんに任せておけばいい」
「そうだね。ターゲットを惚れさせた後で、地獄に突き落とす。その為には、時間がかかる。その間、君は先生じゃなくてターゲットを好きだと思わなくちゃならない。そんなの辛いだけだよ。君の好きな人には、今、君が必要なんだから」
先輩ときいさんの言葉に何も言葉が思いつかない。
確かに、今の先生には俺が必要なのはわかる。
だけど……。
先生を傷つけた橋崎友姫を許せない。
どうせなら、俺の手で地獄に突き落としたい。
でも、先生を裏切って悲しませたくない。
どうしよう。
どうしたらいい?
ブー、ブー
「橋崎の家から、先生の旦那さんが帰宅するみたいだ」
「後をつけるのか?」
「そっちは、あいつらが行く。ただ、橋崎には今日中に接触したい」
「じゃあ、動くしかないね」
「今は、家にいるみたいだ。橋崎が出て行った連絡が入ったら後をつけるか」
「そうだね。なるべく早く接触したい」
「どれくらいかかる?」
「そうだな。こういうタイプは、若い男に弱いからね。一週間もあれば充分だろうね。ただ、その後が少し時間がいるね」
「肉体的な接触に持ち込めばすぐなんだろうけど。そこまでするのは、リスクが高いからな」
「そうそう。だから、ハグぐらいまでいけるのが一番かなーーって思ってる」
先輩ときいさんの会話を聞きながら考えていた。
俺は、先生を助けたい。
その為には、何だってしたい。
その気持ちは嘘じゃない。
だから……。
「それじゃあ、いったん事務所で着替えるか?橋崎、好みに」
「そうだね」
「やらせて欲しい」
「えっ?」
「橋崎友姫を落とすのを俺にやらせて欲しい」
「だから、さっきも言ったけど」
「先生が好きだから、やりたいんだ」
「好きな人を傷つけた相手に復讐したい?」
「はい」
きいさんと先輩は、俺の目をジッと見つめてから「わかった」と呟いた。
「いったん、会社の車を置いてこい。そっから、事務所に来てくれ」
「わかりました」
「空が来るまでに動きがあったらきいちゃんが先に接触する」
「はい」
「その後で、空が接触する」
「はい」
「橋崎友姫を落とす為に、きいちゃんの指示を聞けるか?」
「はい」
「わかった。それじゃあ、一緒に頑張ろう」
「わがまま言ってすみません、先輩」
「いいって、いいって。空の気持ちは、俺にもわかるから。ただ、好きな人を騙すのはしんどいと思う。心を折らないように気をつけろよ」
「はい」
「じゃあ、後でな」
先輩に言われて、俺は車を降りる。
先生のためにやるとしても、俺は先生を傷つけてしまう。
橋崎友姫と一緒にいる事を見られる可能性は、絶対にある。
それでも、俺がやると決めたのは、知りたかったからだ。
橋崎友姫が、どうやって先生の旦那さんを誘惑したのかを……。
先輩やきいさんの口からではなく。
自分のこの耳で聞きたかったのだ。
だから、先生、ごめんなさい。
先生を好きな気持ち、しばらくは忘れるから。
ごめんなさい、先生。
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