第壱話『ツインテールとグドン』─食べられる覚悟はあるのかい?
まぁ、むしろフィッシュボーンみたいな髪型でこられても、困るといえばそうなのだが、まさかBがツインテールで現れるとは思っても見なかった。
知らない男子は全員調べろ。
そう、今日は二月二日、語呂合わせでしか成立しない「ツインテールの日」そんな日に限って、その風習に習うというはいかにもというべきか。いや、この場合は必然と呼ぶべきなのかもしれない。なぜなら「造られた文化日」というのは二週間後にもやってくるし、その一ヶ月後にも訪れる。元々はモロゾフから始まり、それが全国飴菓子工業協同組合の策略によって始まった文化もそうだし、いわゆる「給料三ヶ月分」というのもデビアス社による策略の一つであり、最近では引用されがちな「男性=労働、女性=家で作業」という批判対象として的になるあの文言も元はと言えば一九五〇年代のアメリカにおける「レヴィットタウン」におけるキャンペーンに過ぎないというのに、いつのまにか「文化」「習慣」「風習」となり、いつの間にか暗黙知としての「社会的認知」としているからこそ、それが「時代遅れ」と指摘された時に、元はと言えばそんな概念は社会形態には存在しないのに、まるで「あった」かのように錯誤する、その様はあまりにも滑稽であり、だからこそそんな日に浮かれるような人たちというのは往々にして基本的勘違いの尊重の上に成立している純文化的だとか、そういうことを思っていたからこそ、余計に。
A「というわけで、Bの髪型は欺瞞の祭典、いやもう春の祭典級だ。文化の捏造品である。それはそれでストラヴィンスキーに失礼ではあるのだが」というと、Bは明るくでも、確かにトーンは変えずに「は〜〜〜い。男子ってほんと理屈好き〜〜〜まぁでも、データベース系男子には結論を出せないからね。」と言ってきた。
「いや、あのね。話すよ?ツインテールって言ったらもう、『帰ってきたウルトラマン』の第五話から第六話まででしょ?あの東京襲撃のやつ。あそこに全てが詰まっているよ。」と、詠唱を開始。どう考えてもこんな話は新条アカネ以外には通じないとか思いつつも、なんとか噛み砕いて説明をした。それはもう、副題「グドンは正しかったのか?」というような勢いで。
その上で「ツインテールという髪型は、少女性の象徴とされているがそれが弱者性や可愛さの記号として定着した背景には、視覚的な左右対称性の安心感と、把持可能性の暗示がある。だがそれを、捕食対象として消費する存在──つまりウルトラ怪獣・グドンの視点から見れば、それは機能的な捕食器官でもある」
自分でも何を言っているのか途中からわからなくなる。一層のこと杜王町に住んでいる人気漫画家に頭の中を除いてもらいたい気分だと心の中で考えていると、「なにそれ、最悪な例えじゃん。でもそれが分かってしまう自分はもっと最悪。自己嫌悪。どのくらい最悪かといえば「好きとか嫌いとか、最初に言い出しだのは一体誰なんだろうね」という一説がギャルゲーの台詞回しだったくらい最悪。」
そんな、一介の女子高生が『ときめきメモリアル』ネタを遠回しに、しかもおそらく直ではなく某SF作家のパロディ引用から知ったであろう作法に多少の驚きは隠せなかったがそう思ってしまう自分もまた、同類なので、この話は一旦置いておこう。
閑話休題。
「つまり、ツインテールは形式です。しかし形式が捕食される理由になるならば、それは社会的共犯構造です。そして我々はその構造を一九七一年にブラウン管を通してすでに見ていた。ウルトラ怪獣、グドンとツインテールという物語の中で」とここまで言ったところで、妙に元気そうな面影でBはこういった。
「へぇ、でもそれって「かわいいって、食べられるために存在しているの?」って話でしょ笑。でもねA、食べられる覚悟がない子は、ツインテールになんてしないよ。あと、可愛さは意味じゃなくて、喜怒哀楽で作るものだよ」衝撃的な一言。
ついでその口は止まらぬスピードで「たとえば、化粧って、単に「顔をきれいに見せる」だけじゃなくて、その人の自己表現とか気持ちのスイッチだったりするから、外から見える以上に、内面的な意味が大きいんだよね。まぁ「化ける粉」=「化粧」というのは本当だとは思うけれど。男性側からすると、「なんでそこまでやるの?」とか「誰のため?」って思うこともあるけど、実際は「自分のため」が一番大きいっていう人、めちゃくちゃ多い。
たとえば
・メイクして鏡見て「今日の私いけている」って思うことで一日が違う
・何か大事な場に行くとき、すっぴんじゃスイッチ入らない
・メイクって一種の「戦闘服」みたいなもんだっていう人もいる
男性が感じる「身だしなみ」と、女性が感じる「メイク」の意味が違うから、そこにギャップがあるのは当然かもしれない。ネイルも完全にそのカテゴリ。誰かに見せるためっていうより、「自分がふと目にしたときにテンション上がる」とか、「指先まで自分を整えている感じが気持ちいい」って理由が多い。
そしてほんとに、人と会うときこそ「ちゃんとしている自分」でいたいって気持ちが強く出る場面なんだと思う。たとえ相手が気づいてなくても、「自分の中で整っているか」が大事っていうか。男性のほうだと、たとえば服選びとか髪型とかで「今日はちょっと勝負する」みたいなことあるじゃん?あれの拡張版+習慣化したやつが、女子のメイクとかネイルって感じかも。話はそれたけど、だから、たかだかツインテールごとき、確かに名前の由来原初としてはウルトラ怪獣が先んじていた。というカテゴリに括れば分かるかもしれないが、そこまで広げたとて、それは全く鬱陶しい、それってさ、哲学っぽいけど、ぜんぶ煙なんだよね。蘊蓄、よりも体感なのよ。
だから、わたしから見たら──ただのミスト。フランクダラボン版級の」
──そうして、ツインテールの話は、煙のように消えていった。
Music By. The Crystal Method. 『I Know It's You』
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