第3章 不審
【前書き】
今回で正式連載化です。
毎日更新でありませんが、よろしくお願いします。
※詳細はあらすじをご参照ください。
【本編】
ひなたと亮――。
11:00のあかつき市内。
二人を乗せた
ネオンや派手な看板が並ぶ昼の歓楽街。
人々の喧騒がこだまする――北竜神町に差しかかったころだった。
SHINOBIを操りながらひなたがつぶやく。
「パパが昔良く行ってたって……そして、この歓楽街から――白影トンネルまで走ってたって。毎日ね」
亮の口角が少し緩む。
「ここが根城だったみたいだしな。元
「私たちが生まれる前のことよ?知ってるでしょ?」
「今朝のひなたのお父さんからの電話――確かにちょっとドスが効いてたな。ひなただって……」
ひなたの眉間に皺が寄る。
「うるさい!」
――肘鉄!
ひなたの左肘が亮の左腰に炸裂する。
――フラッ……。
バイクが少し左右に揺れる。
「危ないよ!」
亮はとっさに腹筋を絞め、態勢を立て直す。
「おっと……いけないわ」
ひなたはハンドルを握り直し、バイクを立て直した。
すると、左肩にかすかな鈍痛が走る。
頬の奥をかすかに噛みしめた。
(理事長先生――天美に撃たれた古傷……)
――シュルルルル……。
一瞬後、SHINOBIのエンジンが、わずかに息継ぎをするように震えた。
「……ん?」
スロットルをひねっても、反応が遅い。
ひなたは眉を寄せ、計器に視線を落とした。
「亮……ガス欠だわ。給油しないと。昨日まで満タンだったのに……」
「マジかよ。スタンドなんて――」
亮が前方を見つめた瞬間、赤と白の看板が目に入る。
――
――“
全国どこにでもある、あのガソリンスタンドだ。
あかつき市、白影市にも点在する、ごく日常的な景色。
「……あそこしかないな」
「仕方ないわね」
ひなたはウインカーを出し、ゆっくりとバイクを減速させた。
その横顔を、亮がふと見つめる。
「けどさ……」
「ん?」
「それだけ遠くまで走ったってことだよな。京子ちゃんは」
ひなたの胸の奥が、きゅっと縮む。
「……ええ。白影市まで、自分の意思で行ったのか、行かされたのか……」
風が少し強く吹き、ヘルメットのシールドが揺れた。
SHINOBIは、とぼとぼと歩くような速度でENMOSの敷地に入る。
給油機の前で停車すると、エンジンが最後の震えを残して静かに沈黙した。
「……さて――」
セルフ給油機の前にバイクを停め、ひなたはタンクキャップに手をかけた。
亮はというと、左腰に手を当てながら小さく息をつく。
「肘鉄……効いたな……」
「知らないわよ。変なこと言うからでしょ」
ひなたが給油ノズルを握った、そのとき――。
――ブロロロロロッ!
甲高いエンジン音。
派手なピンクのバイクが、ENMOSの敷地に滑り込んできた。
ひなたは内心でつぶやきを漏らす。
(
ライダーは細身の女性。
赤いジャケット、青いスカート。白いドレスシャツに青のボウタイ。
そしてピンクのヘルメット。
昼のガソリンスタンドに似つかわしくない、舞台衣装みたいな色彩だった。
「あの制服……白影高校だぞ?」
亮が目を細め、ひなたが応じる。
「そういえば……練習試合で……見たかも」
ライダーが足をつき、ゆっくりヘルメットを外す。
明るい色の長髪が、夏の風にふわりと舞った。
「何か知らないかな?」
亮が小声で言う。
「……聞いてみる?」
ひなたは給油ノズルを戻し、ライダーへ歩み寄った。
「あの、すみません……!」
声をかけるひなたに、女性がチラと視線を向ける。
「何か用?」
その口調は短く、どこか棘があった。
ひなたは怯まずに声を続ける。
「白影高校の人ですよね?」
「そうだけど?」
「聞きたいことがあるんですが……」
女性はわずかに眉を上げた。
「
「あっ、ごめんなさい!私、碧唯ひなたです。私立あかつき学園の……」
女性はヘルメットを脇に抱え、ひなたをじっと見た。
「白影高校。
名前を名乗ったその瞬間、空気が風向きごと変わったような、研ぎ澄まされた存在感が満ちた。
ひなたの共感力が発動する――背筋が、自然と伸びた。
(ただの高校生でしょ?何者なの?)
【後書き】
今回から「書きながら連載」するスタイルのため、更新頻度は遅くなります。
発表済のものを改稿する場合もありますので、ご了承ください。
コメントや感想をいただけると、今後の励みになります。
以後、よろしくお願いします。
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