君たち、恋のライバルだったよね!?
堀宮ほりあ
プロローグ(1)
四月某日。別れの季節を経て数週間、今度は出会いの季節となるこの時期。私立華月高等学校──通称カゲコー──でも、新入生たちを祝うかのように桜吹雪が舞っていた。
生徒数千人程の県内有数のマンモス校であるこの学校の校庭は非常に広く、手入れされた芝に非常に豪華な桜並木などがあり、県内の一つの名所とも謳われるほどの綺麗な校庭である。もっとも、関係者以外は立ち入ることは出来ないのだが。
そんな広い校庭が少し狭苦しく感じてしまうほどの人だかりが出来ていた。
新入生だけでなく二年や三年も入り乱れる人混みの視線はただ一点に集まっている。
その視線の先には三人の女子生徒。身につけている赤色のリボンから、前年度入学した生徒、二年生であることが分かる。
「三女神だ」と誰かがつぶやき、それに便乗するかのように黄色い歓声混じりのざわめきが聞こえる。
三女神。去年入学しその美貌で直ぐに学校中の話題をそれ一色にした三人の生徒のことである。
美貌だけでなく、非常に優秀な成績であったり、誰にでも優しく接する人あたりのいい性格などからまるで女神だと崇められ、誰が呼び始めたか「三女神」と呼ばれるようになった。
「あっ……天音さん!お、おはようございます……っ!」
「ええ、おはよう」
挨拶を返しただけで湧き上がる歓声を切れ長の瞳が捉える。
枝毛ひとつない艶やかな長い黒髪を揺らし、優雅に歩く少女の名は
「みんな元気だね〜」
少し照れくさそうにゆるふわなカールのかかった金髪のボブカットを弄りながら、少したれ気味の瞳を細める。可愛らしい泣きぼくろが特徴の彼女の名前は
「見て、葉山さんよ……!」
「今日もキラキラしてるわ……」
「俺、この前笑顔向けてもらったんだよ、もしかしてさ」
「無い無い!あの人誰にでも優しい女神みたいな人なんだから!でもやっぱ可愛いなぁ」
最後の一人。きっちりと切りそろえられたセミロングの黒髪(最近美容院行ったからね)と、特徴的な青色の瞳の少女の名は
「は、ははっ。みんなオハヨー……」
そう、
「……ふう、毎回のようにあれをされると疲れるのだけど」
「えへへ、みんなかわいいって言ってくれるのは嬉しいけど、毎日だとちょっと疲れちゃうよね」
人混みを抜けて教室へと入り、一限目の準備を進める梓ちゃんが疲れを隠さずつぶやく。それに続いて困ったように同意するいろはちゃん。一年近く見てきたこの光景は、見慣れたものとなりつつあった。
何故わたしが三女神と呼ばれる美少女二人と共に登校できているかと言われれば、それは彼女らとわたしが友人関係だからである。なんで友人になれたかって?それは知らん……わたしが聞きたい……。
そもそもわたしがこの二人と同列に扱われてること自体に異を唱えたい。三女神だなんだと持て囃されているが、実際のところ梓ちゃんといろはちゃんの二大美少女の間違いだろう。日本人は三とか五とか七とかなんとなく好きだからしっくり来るようにとりあえずわたしを入れて三女神にしたに違いない。双女神とかにした方がいいんじゃない?
「くだらない自虐をしてる暇があるなら準備しなさい。HR始まるわよ」
「ひどい!?というかナチュラルに思考読むのやめない!?」
「一年近くも付き合いがあるのだからだいたい何考えてるかくらい分かるわよ。そもそもあなた顔に出すぎ」
うっ。自覚がないところを責められると弱い。そんなに顔に出やすいかな……
「確かに夜見子ちゃんわかりやすいよね〜。でもそんなところもかわいいからみんな夜見子ちゃんのこと慕ってくれてるんじゃないかな?私好きだよ?夜見子ちゃんのそういう所」
朗らかに笑ういろはちゃんがわたしなんかのフォローをしてくれる。うう、いろはちゃん優しい……天使……しゅき……
少し毒舌だけどクールで賢くて美人さんな梓ちゃん、優しくて可愛くてまるで天使みたいないろはちゃん。そしてか弱い生き物のわたし。三女神(笑)の完成である。
ガララ、と教室の戸が開く音がする。その方向を見ると自然と私の身体に緊張が走りこわばる。程度は違えどほか二人も同じみたいだ。
「おはよー」
爽やかで存在感のある低めの声にクラスメイト達は次々に挨拶する。
その男の子はこちらの方に歩いてきて挨拶してきた。
「よっ!三人とも。今日も仲良いな」
「ええ。おはよう」
「おはよう琉真くん」
「おっおおおはよう!琉真くんっ!」
二人はいとも自然に挨拶しているのにわたしだけこのザマ。うーん、ゴミ!w
彼の名前は
誰にでも気さくに話しかけ成績優秀、運動神経も良いクラスの人気者。本人はそれを自慢すること無い謙虚な性格でもある。
……そして、私の好きな人。いや、わたし達の好きな人。
どんな運命のいたずらか、わたし達は同じ男の子に恋してしまった。恋のライバル、というやつだ。
と言っても、わたし達は依然として仲が良い。完全無欠な二人の女神は恋のライバルだからといってわたしを邪険にしないでくれている。好き。
肝心のヒロインレースはというと、どう考えてもわたしが出遅れている。それもそのはず、緊張しながらも表面上は普通に話せている二人と、まともに挨拶も出来ないわたしのどこに差があるかといえばそんなものはひと目でわかる。そもそも華やかさが違うわけだが。
でも好きな人を諦めたくない、というのはわたしのエゴなんだろう。
そんな独白をしていたらいつの間にか琉真くんは自分の席に戻ってしまった。挨拶(まともに出来てないけど!)しかしていない。哀れなり夜見子。
そんな様子を見かねていろはちゃんが肩をぽんぽんと撫でてくれる。優しい。けど今はそのヒロイン力が羨ましい……ッ!
「二人はすごいよ……好きな人を前にして普通にしていられるんだから」
「そんな事ないよ、私達もすっごい緊張してるんだよ〜?」
「まあ、夜見子程じゃないけれど。琉真とも私達と同じくらいの付き合いでしょう。慣れなさいよ少しくらい」
呆れを隠さず梓ちゃんがわたしに言う。出来るやつの「やればいいのに」は出来ない奴にとっての言葉のナイフなんだぞ!ちくしょう!
「わかってるよ〜……でもわたしこんなのだから、いつまで経っても琉真くんとまともに喋れないの!」
「そういえばあなた、私達と知り合ってから数ヶ月はあんな感じだったわね。それで他の人からは人見知りとは真逆の評価を受けているのだから、大したものだわ」
それは……そうだわ。マジでなんで?言葉が出てこないから愛想笑いを浮かべて誤魔化しているだけなのだが、みんなは何を勘違いしているのかそれを「誰にでも笑顔を向けてくれる人」見たいな解釈をしてくる。漫画やアニメで突拍子もない予想してくる考察班でもここまでぶっ飛んだ解釈しないよ。
慣れない目線、ズレた評価。だけど、これもまた日常。マイナスなものでは無いのだから、まだそう捉える事が出来る。そう、高校入学以降一年も続く日常なのだ。慣れろという方が正しいのだろう。
この変わり映えしない、しかしどこか心地いい日常がずっと続いていけばいい。そ、それでワンチャン琉真くんとお付き合い出来たらいい。そう考えていたんだけど……
その日の放課後、特に何事もなく授業を終え、わたし達三人は帰宅するべく駅に向かっていた。
駅に向かったら私と二人は逆方向なのでそこでさよならしてしまうけれど、まあまた明日だって会えるんだし別に寂しくはない。……ホントだよ?
「っと……」
歩いていたら横断歩道の手前で鞄に付けていたストラップが取れてしまった。二人はそれに気づいてわたしがつけ直そうとするのを待ってくれようとしていたが、歩行者信号が赤になったら申し訳ないと思いわたしは大丈夫といい二人に先に行かせた。
「はぁ……なんで急に取れたんだろ……ぉ?」
ストラップをつけ直し、二人に追いつくべく顔を上げたら、横目に走ってくる車が見えた。
歩行者は点滅しているものの未だに青。つまり車側の信号は赤なわけで。しかし近づいてくる車は一向に速度を緩める様子はない。
居眠り?飲酒?それとも何かの故障?はたまた単純に減速が遅いだけ?様々な憶測が頭の中でぐちゃぐちゃになる中、ハッと前にいる二人を見る。どうやら気づいてないらしい。
「二人とも!」
わたしは走り出していた。未だに脳内の整理など出来てはいない。間に合うかこれ?というかそもそも車が信号無視するとは限らないし、停止線で止まるかもしれない。そうなったらわたしの勘違いじゃん。そもそも──
──わたしは止まりかけた脚に力を入れて、全速力で走った。二人の背を思いっきり押した瞬間、鈍い衝撃音と共に一瞬視界が回転する。
視界が安定した時に最初に映ったのはアスファルトの地面。二人はどうなった?無事?そう思った瞬間「夜見子!」と聞きなれた声と共に慌ただしい足音が近づいてくる。わたしはバッと身体を起こし二人の無事を確認する。
「二人とも無事!?怪我は……梓ちゃん膝擦りむいてるじゃん!?ごめんわたしが突き飛ばしたせいで……」
「あなた何言ってるの!?なんで……」
「なんでって何!?友達だからに決まってんじゃん!」
「よ、夜見子ちゃん落ち着いて!」
二人がなぜか心配そうな目でわたしを見る。どう考えてもわたしが心配する立場だろうこれは。梓ちゃんなんて膝から怪我してるし……
「落ち着いてらんないよ!二人が危ない目にあってるのに!いろはちゃんも大丈夫!?」
「そうじゃなくって!夜見子ちゃん!轢かれて……」
いろはちゃんがそう言いかけた瞬間、頭部にどろりとした感触がした。不思議に思って触ると手には赤色の液体がべったりと着いている。そして先程のいろはちゃんの言葉。二人のわたしを見る目。
「えっ」
あっ、轢かれたのわたしですかこれ?
次の瞬間、わたしの意識はプツンと切れた。
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