弱いので恩を売ろうと思う〜異世界転生したけどチート能力は手に入れなかったので浅ましく小汚く生きていくしかありませんでしたが、何故か好かれてしまっている〜
畑山
第1話 たった260フールの種銭で……
「さて……死活問題ときましたね」
異世界の街並みを闊歩しながら手持ちの小銭を数える。
「260フール……宿にも泊まれねぇや……。」
俺は絶望に顔を染めながら何故こうなったのかを思い耽る。
俺の名前は石田勘平、年齢は17歳でつい一週間前までは普通の高校生だった。過去形であることでお察しだとは思うがそう今俺は異世界に転生してしまっている。
いやはっきり言うと転生か転移かなんてところは曖昧であり、異世界に来る直前の記憶の不鮮明なのだ。
まぁこの際、そんなことはどうでもいい。
その理由は明白……俺が無能だった為だ。
自分をめちゃくちゃ貶めているようで気分は下がるが、この話の論点はそこではない。
知能的なことは置いといて、俺がこの世界で活躍できるような特段優れた能力を持っていないことが問題だった。
「今時何千連無料とか、確定最強武器ゲット!だとか初回特典盛り盛りじゃねぇと新規ユーザーの獲得は厳しいだろうよ……。」
思わずため息と共に悲しみの籠った不満を口に出す。
実際俺は来た当時、街並みを見ればファンタジーの世界が広がっており獣人などもいるし西洋風の鎧を着た人はいるしで困惑しつつも最初は少し浮かれていた節はあった。
しかしすぐに思い知る。ステータスとか言っても目の前にウィンドウが出るなんてことはなく腕っぷしも普通のまま、異世界チートとかは夢のまた夢であり俺はただの一般人なのだと思い知らされた。
「せめて女神様のチュートリアルとかは欲しかったよなぁ……。」
夢見る美少女との邂逅。現世で読んだ異世界のテンプレと今までの出来事との乖離に不満は次々と溢れて出てくる。
一応チートなんてないと言ったが唯一お情けぐらいではあるが言語は扱える。ここの世界でも言語は複数存在しているがその中でも主に人族の間で公用語とされている共通語だけを俺は扱える。
ありがたいはありがたいがなんとも素直に感謝を述べられないのは何故だろうか……。
「売れるもんはもうねぇもんな……。」
ポッケや胸の辺りをパンパンと叩き確認するが、もちろん出るのは埃だけ……金目のものなんて無論ない。
ここで疑問が上がると思うが、それは俺が一週間どうやって生きてきたのかであろう。
それは俺の服に注視すれば分かることであろう、今俺の服は周りから逸脱してない普通の服である。
それはファンタジーなこの世界で普通の服と言うことだ。とどのつまりのこと俺は服を売った金で食い繋いできた。
元々着ていた服は安いものだったがあくまでも現代の知識で作られた服であり、実際そこそこの値段で売れた。
明確な値段で言うと上着が二万フールでズボンが一万五千フールだった。
相場も分からないので二束三文なのかも知れないが生きるか死ぬかの最中にそうなことは言っていられない。
店主の善性に賭けるしかなかった。
そしてその売却代金で安い服を買って、さらに金を稼ぐため冒険者ギルドに加入するための登録料や武器や防具、鞄を購入しそっから色々宿代や食料や日用品など買ったら、現在の残高が残り260フールであると言うことだ。
一応補足だが1フールはこっちで言うと一円に相当すると思う。
服の売却代の他に冒険者として薬草採取や町の雑用などをこなしているが危険度の低い依頼なので報酬も少ない。
「ハードすぎやしねぇかなぁ!」
バッと天へと咆哮を飛ばすが特に意味はなくすぐに掻き消えていった……。
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俺は取り敢えず町の出店が多く出る通りへとに足を運んでいた。
手持ちの260フールでギリ一食分の飯は食える。
「なににするかって……選べる立場じゃねぇな……。」
当たり前だが選択肢は少ない、現代日本に比べて物価は安いと思うがそれでもこの手持ちでもの買うにはいくらか我慢しなくてはいけない。
安い店を探して歩く、できれば量があってちゃんと味があるものが理想だが……なんて当たり前のことを考えながら通りを闊歩していると、俺は思わず眉を顰めた。
「ちっ……目覚めの悪りぃ」
ふらふらと力なく汚い外套を着込んだ小さな子供が路地裏に入っていくのが目に入ったのだ。
さりげなく近づき覗き込むとやはりその子供は弱々しく、倒れ込んでいた。
「……。」
周囲を見回すがもちろん周りの大人たちは我関せずである。俺は思うがそれは正解であり、常識なのであろう。
現代でも問題ごとになるべく関わらないようにするのは自分を守るための自衛手段で、人を助けるにはその人の心の余裕と安全圏にいることが重要である。
俺だって見捨てるべきだと思う。実際この町でこの一週間でこの似たような事例は何回か見た。
子供がこんなんになっているのは初めて見たがおそらく一週間でこれを目撃すると言うことは日常茶飯事的に起こっていることなんだろう。
「……大和魂……ちと使い方は違えか……。」
様々な考えが交差する。見捨てるのが定石であり、もし助けるにしても今の自分自身が置かれている状況では助ける側に回れる余裕はない。
だけども心に引っかかった。自己犠牲とか日本人の助け合いの精神だとかそんな高尚なものではないのだが、胸に抱かれたこの思いは消すことはできなかったのだ。
チラと出店に目をやる。ため息をつきながら俺は歩き出した。
「——おい、これ食えよ……。」
子供にしゃがみながら飯とスープを差し出した。
「えっ……」
子供は驚いたのかふと顔がこちらを向く。
「ほら……これ食べろ……空いてんだろ腹。」
ぼっきらぼうに食料を手に持たせる。手は細くなって痩せており、心がきゅっとなるが世界が世界なのだと諦めるしかない。
この食料は決して高いものではない、260フールぴったりで買ってきた安物だ。
それにこれでこの子供が助かるとは思わない。逆にもっと苦しんでしまうかも知れない、そうだこれは俺の完全なる自己満だ。
人を助けたつもりでいい気になって感傷に浸る。
「……冷めちまうぞ……早く食べな……俺はいくからよ」
「あっ……え」
振り返ることなく逃げるように歩を進める。
言葉を発するたび心底自分が嫌になったためだった。責任なんて取れないのに自分の惨めさを埋めるために他人に優しくする。
早く一人前になろう……そう思ってギルドへと歩き出した。
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