2-4 あなたの一日が終わるときに

 今日も今日とて学校が終わり、家へ帰ってきた。

 今日は妹の授業参観らしい。

 そのため、妹と母親の帰りが遅くなるので、「夕飯作っておいてね (^_-)-☆」と、母親から置手紙があった。


 さて、何を作ろう。

 作れるものにも限りはあるが、冷蔵庫の中にはジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、牛肉が入っていた。

 カレーしかないだろう。

 カレーなら、誰が作っても不味くなることはないだろうし。


 そうして夕飯を作っていると、「ただいまー」という声とともに家族が帰ってきた。


「おかえりー」

 と声をかけ、帰ってきた家族の方を見ると、いつもより一人多かった。


「結花ちゃん?」

 そこには、母親、妹、そして妹の友達の三人がいた。


「どうしたの?」

「イラってしたから、連れて帰ってきちゃった」

 と母親は言う。


「イラっとしたからって……それ、大体犯罪起こした人のセリフなような」

「小さいことは気にしないの」


 小さいことだろうか。

 そんな簡単に連れて帰ってきて、誘拐とか言われそうな気もするが……。

 まあ、もし母親が捕まったら、面会ぐらいは行こうと思う。


「自分の家だと思って、くつろいでいいから」

「……はい。」

 母が、結花ちゃんへ優しく声をかける。


「ご飯、お兄ちゃんが作ったの!?」

「まあ、とりあえずもうすぐカレーできるよ」

 

 よく事情は分からないが、とりあえずご飯を食べよう。


「結花ちゃん、カレー中辛だけど大丈夫?」

「……たぶん大丈夫です。」

「えー、辛口がよかったなー」

「唐辛子でも食っとけ」


 サラダは冷蔵庫に入っていたので、カレーとサラダをお皿に盛り、机に並べる。


「いただきまーす」

 四人でご飯を食べ始める。


「なんか、授業参観疲れた~お兄ちゃんって、授業参観ないの?」

「あるけど……来る人少ないよ」

「じゃあ、行っちゃおうかな」

「来なくていいです……」


 高校の授業参観は、パラパラ見に来る人がいるくらいで、基本的には行かない人の方が多いだろう。


「結花ちゃん、カレー辛さ大丈夫?」

「……はい。……おいしい。」


 彼女は泣いていた。


「辛いなら、本当残していいよ!! 母さんなんかヨーグルト!!」

「……大丈夫です。本当においしいだけです。」


 女の子に突然泣かれると、どうしたらいいか分からなかった。


「ご飯、食べたら先にお風呂入っていいよ」

「……ありがとうございます。」


 母は優しく彼女に言う。

 夕飯を食べ終えた彼女は、お風呂へ向かった。


「それで、何があったの?」

「お母さんが……」


「今日、授業参観あったでしょ。

 先生が「お子さんの隣に座ってください」って言ったから、

 それで移動したら……結花ちゃん、柚の前の席だったんだけど、親御さん来られてなくて。

 一人寂しそうだったから、私が柚と結花ちゃんの間に座ったの。

 そしたら、先生が「ちゃんと座ってください」って言ってきて。

 「座ってますけど」って言い返したら、「結花ちゃんの事は気にしないでください。

 来られていないのは、保護者の方が悪いので」って、みんなの前で言ってきて。

 そんなこと、子どもの前で言う事ではないでしょ。って、頭にきて……」


 真剣な顔で、声を少し荒げながら母は言う。


「この子も私の子だ!!!って、叫んだのはびっくりしたけど」

「だって、あの先生おかしいって……」


 確かに、周りも複雑な家庭だと思って、びっくりするだろう。


「親って、なんで来てなかったの?」

「帰りに聞いたんだけど……ご家族の方、交通事故で亡くなられたみたいで……。今は叔父さんの方に引き取られたみたいなんだけど、その人も家に帰ってこないみたいで……」

「そうなんだ……」


 小学生で、家族も保護者もおらず、一人で過ごしていたのだろうか……。


 俺はあの夜、公園で一人佇む彼女になんと言ってただろう。

 罪悪感に苛まれ、心臓の鼓動がやけに煩く感じる。


 許してもらえるかは分からないが、謝ろう。


「……お風呂上がりました。」

 彼女は小学生らしい可愛いパジャマを着ていた。

 髪はまだ少し濡れ、その水滴はパジャマに少しかかっていた。


「じゃあ、次入ろう~」

 妹は着替えを持ってお風呂へ向かった。

 

 お風呂から上がった彼女は、ソファーに腰かけている。


「なんかゲームしたいのある?」

「……じゃあ、マッスルパーティー。」


 意外とマッスル系好きなんだ。


「じゃあ、お母さんもやっちゃおうかな!」


 そうして、ゲームを始める。

 マッスルパーティーは、マッスルカートを作っている会社と同じ会社のゲームだ。

 多種多様なボディービルダーが、ミニゲームやアスレチックをクリアし、すごろくでゴールを目指すゲームだ。


「ちょっと、プロテインに下剤混ぜたの誰?!」

「……ごめんなさい。わたしです。」

「じゃあ、許そう!」


 母はにこやかに、彼女へ言う。

 結花ちゃんも、まんざらではなさそうにゲームを楽しんでいた。

 トラップをしかけたのが俺だったら、どうなっていたのだろう。


「あー、ゲームしてる!!柚もしよ」

「じゃあ、次俺、風呂入るから代わろう」

「わかった!!」


 そうして風呂から上がってきた妹にゲームを代わり、風呂へ向かった。

 風呂から上がり、リビングに戻ってきた頃には母しかいなかった。


「二人は?」

「もう、上がったよー」


 俺と柚葉の部屋は二階にある。

 二人とも、妹の部屋に行ったのだろう。


「これからどうすんの?」

 母に尋ねる


「なにが?」

「結花ちゃんのこと」


 実際問題、勝手に引き取って育てていくわけにもいかないだろう。

 保護者がいない場合、ちゃんとした機関や施設に相談していくしかないと思うが……。


「でも、うちの子って、言っちゃったから。可愛い妹が一人増えて、嬉しいでしょ?」

「そういう問題じゃないような……」

「いいの、小さいことは」


 父親も、突然娘が一人増えてたらびっくりするだろう。

 まあ、父親は母親に尻に敷かれているので、なにも反対しそうにはないが。


「子どもは、早く勉強してから寝てください」

「はい……」


 そうして、今日、家族が一人増えた。

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