1-4 Parkって、昔はParcだったらしい①
今日は土曜日だ。
昨日は、ただ、コンビニへ買い物に行っただけのはずが、魔法少女姿の
自室のベッドの上で転がりながら、このまま惰眠を
それとも、せっかくの休日だし外に出るか、そんなことを考えていた時――
「遊園地に行こう!! お兄ちゃん」
バン!! と勢いよく部屋の扉が開き、妹がそう言った。
「いや、いいよ。母さんと行ってくれば?」
遊園地までは電車で約一時間。少し面倒な距離だ。
「お母さん、用事あるって。どうせお兄ちゃん暇じゃん。今日プ〇キュアが来るんだよ!!」
プ〇キュアが来るらしい……。ヒーローショーでもあるのだろうか。
周りは小さい子しかいないだろう。
小学六年生の妹だと、少し浮きそうな気もするが、まあ本人が楽しいならそれでいいのだろうが。
「
母の声が聞こえる。逆らってはこの家で生きていけなかった。
母の鶴の一声により、俺は遊園地へ行くことが決定した。
身支度を整えて家を出発し、電車に揺られること一時間。
俺たちは目的地の遊園地に到着した。
遊園地の正門には、巨大なゴリラの像が設置され、入園者を待ち構えている。
ゴリラがいるわけでもないのに、なぜゴリラの像なのか。子どものころに調べたことはあるが、結局答えはわからず、謎のままだ。
遊園地は、たくさんの家族連れで賑わっていた。
「お兄ちゃん、とりあえず、ジェットコースター行こう!」
「ヒーローショーって何時から?」
「お昼すぎだから、まだ時間あるよ!」
そんな会話を交わしながら、妹はジェットコースターへ小走りで向かっていった。
「きゃあーー!!」
ジェットコースターを乗り終えた妹は、「ふふーん」と満足げな表情を浮かべている。
一方の俺はというと、胃のあたりが微妙に重かった。
こんなに乗り物が苦手だっただろうか……。
久しぶりに相対した強敵(ジェットコースター)に畏怖を覚えた。
「お兄ちゃん、次行こう!!」
妹の有り余る元気にも、別の意味で恐怖を感じる。
一日、体力は持つのだろうか……そんなことを考えていた時――
ふと視線の先に、遊園地の片隅を一人歩く、見知った顔が目に入った。
……昨日の今日で偶然だろうか。
不安に駆られつつも、後で見つかって「何で話しかけてこなかったのよ!!」と文句を言われる可能性があるので、無視するわけにはいかなかった。
「何してんの?
「……
それは、こちらのセリフだろう。
女子高生が一人で遊園地に来ている方が、よほど珍しい。
「お兄ちゃん、知ってる人?」
「学校の同級生だけど……」
「胡桃沢唯って言います。よろしくね」
胡桃沢は、営業スマイルのような外向けの顔で挨拶をした。
「
妹は、目を閉じて、手を頭に添えて唸りだした。
「どうした?」
「胡桃沢さんって、昔家に来てました?」
「……憶えてくれてるの?」
「なんか、昔遊んでもらった気がして……」
胡桃沢は憶えてもらっていたことが、よっぽどうれしかったのだろう。
少し涙目で、今にも、妹に抱き着く勢いだった。
「凄い……柚葉ちゃんまだ小さかったから覚えてないかなって」
「少しだけですけど……」
最後に会ったのは、七年ぐらい前だろう。
妹は、四、五歳ぐらいだったと思うが、よく覚えているものだ。
家ではプ〇キュアと一緒に踊っていたりするが、小学校では優秀な方らしい。さすがだ。
そう思うと、胡桃沢は学校で友人と話すこともなく、机に向かって勉強か読書をしているタイプだ。
勝手に優等生で、勉強できる方だと思っていたが、カンニングで大変な目にあっているので、人は見かけによらないのだろうか。
「今って、一人ですか?」
「一人だけど……、ちょっと用事あって」
「唯さんが大丈夫なら、一緒に遊園地回らないかなって」
「大丈夫。たいした用事じゃないから」
どうやら理性が敗北したらしい。胡桃沢は妹に抱き着いていた。
まあ、
そうして、三人で遊園地を回ることになった。
「ひ……八朔くん達は、遊園地よく来るの?」
「全然。今日は、柚葉が来たいって言ったから付き添いで」
「ふーん」
「そっちこそ、ひとりでどうしたの?」
「あ……」
胡桃沢は、忘れていた何かを思い出したようだ。
妹に聞こえないように少し離れ小声で話す。
「……今日この遊園地でミレンナ―が現れて、暴れる可能性があるの。無視する訳にもいかないから」
「ミレンナ―って、昼間にも出るの?」
まだ時刻は昼の二時前だ。
ミレンナーは成仏できなかった人々、幽霊の成れの果てみたいな話だったような……。
「さあ?」
「さあって……」
「私も、夜しか会った事ないけど、ランランが出るって言ってたから」
一応持ってきていたポケットの中の魔法の手鏡を触る。
巻き込まれることはないと思うが……。
「あ、ももっくだ!!」
「ももっく?」
突然妹が走り出したその先には、この遊園地のマスコットがいた。
帽子を被った茶色いコアラのような見た目で、子供たちに風船を配っていた。
「写真いかがですか!!」
マスコットの隣にいる、居酒屋の客引きにでもいそうな、威勢のいいスタッフから写真を勧められる。
「お兄ちゃん早く!!」
妹は、我先にとマスコットの前にできていた子どもたちの列へ並んでいた。
「ももっく懐かしいな……」
「あんなの、昔からいたっけ?」
俺がそう言うと、胡桃沢は、冷めた目でこちらに視線を這わせた後、ローキックをお見舞いしてきた。
「なんで……?」
彼女は、はあ……とため息をついていた。
俺がいったいなにをしたっていうのだろうか。
「写真行きますよー!! はい、チーズ!」
スタッフにそれぞれスマートフォンを手渡し、シャッター音が軽く鳴った。
「ありがとうございます!!」
俺たちは、スマートフォンを受け取った。
胡桃沢はスマートフォンを大切そうに、胸に抱しめていた。
「……よ~、何してんだ?」
周囲の人には聞こえないように、小さな声でももっくが話しかけてきた。
なんだこいつ……と思ったが、よく聞いたらその声には聞き覚えがあった。
「
「おう、流石相棒だ」
「黙れ。バイト中? 何でここまでバイトしに来てんだよ……家から遠いだろ」
「時給良かったんだよ、交通費も支給してくれるしな」
同級生の
「それにしても、あれ胡桃沢だろ、仲直りしたのか?」
「仲直りって……、別に喧嘩もしてないだろ」
大和も小学生からの同級生なので、胡桃沢のことは知っているが、クラスで話している所は見たことがなかった。
「まぁ、また話聞かせろよ」
大和は、小声でそういうと、仕事に戻って行った。
「どうかしたの?」
「いや、別に……」
別に話してもよかったのだが、妹と胡桃沢に「きぐるみの中身、大和だったよ!!」と打ち明けるのは、夢を壊すようで少し憚られた。
「柚葉、そういえば、もう少しで時間?」
「あ、そうかも!!」
「何かあるの?」
「元々、今日プ〇キュアのショーがあるらしいからそれ見に来てて」
「プ〇キュア好きなの?」
「はい……」
妹は少し恥ずかしそうに返事をしていた。
会場が設置してある場所へ向かっていた時、
ドォン――!!
という爆発音が響き渡り、遊園地に来ていた人々の悲鳴とともに、遠くから黒い煙が立ち上った。
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