顔がタイプのレンタル彼氏を頼んだら嫌いな女だった
雨野 天遊
第1話
人を嫌いになることは滅多にないけれど、私にはどうしても一人だけ好きになれない人がいる。
「じゃあ……
教授の言葉と共に艶やかな黒ロングを揺らす少女は立ち上がり、指定されたページを読み始める。
くっきりと整った目元とまつ毛、すっと通った鼻筋、魅力的な唇、整った輪郭。彼女の顔に目を奪われる人は多いのではないのだろうか。
特に目元のホクロは彼女の色気を際立たせている。そこだけはかわいいと思う。
教材の文字を読み上げる彼女の声が淀みなく流れていき、発音もしっかりしていて聞き取りやすい。人前なのに怖じけずに淡々と音読をこなすその様子は勇ましい。
彼女の音読が終われば、教室内は拍手に包まれた。
「望月さん、勉強もできるなんてすごいね」
「才色兼備ってこのためにある言葉なんだ」
皆、小声で彼女を賞賛する。
ただ書いてあることを読み上げただけだろうと悪態をつきたくなった。
望月涼夏は私の大学のミスコンで優勝した女だ。
そして、私は二番目の女。
私がミスコンで優勝するだろうと言われていた。しかし、望月さんが彗星の如く現れて私は僅かな票差で負けたのだ。
身内票もあり、確実に一位になれると確信していた分、ダメージは大きかった。
それから、私は望月さんを目で追うようになる。
常に冷静かつクールで、一匹狼のような彼女の行動はいちいち鼻につく。私から見たらただ澄ましているように見えるからだ。
今日もそんなことを考えながら望月さんを睨みつけて講義が終わってしまった。
「
「うん!」
友達の
翠は登校初日から意気投合して仲良くなった大学の中でも気が許せる存在だ。
明るく朗らかな性格で、話がとにかく面白い。とても気が合うので失いたくない友達だ。
「今日ももっちーは最強だったね」
「もっちー?」
私が首を傾げて翠を見ると、彼女は嬉しそうに腕を組んで話を続ける。
「もっちーはもっちーだよ。望月ちゃんのこと」
「望月さんと仲良いの?」
「ぜんぜん!」
「仲良くないのにあだ名で呼んでるの?」
「だってもっちーはみんなのアイドルじゃん!」
翠の素直な言葉がチクチクと胸に刺さった。
ミスコンで優勝するということは、こういう影響を与える。超有名になって友達じゃない人からも親しまれるようになるのだ。
私はそれが羨ましくて、憧れで、そのためにミスコンに出た。
「もちろん、杏奈もみんなのアイドルだけどね」
「私は二番目の女だよ」
思わず棘のある言葉を投げてしまう。
暗くなった私に困惑した翠はブンブンと首を横に振った。
「数票差だったから、同率一位みたいなものだよ! 私は杏奈が一番だと思ってる」
翠はそう言いながらグリグリと私を抱き締めてくる。落ち込んでいたが、彼女の言葉のおかげで少しだけ元気が出た。
二人で食堂の行列に並ぶ。
学食が何やら騒がしいと思ったら、前に並んでいる望月さんを見た人たちがざわついていたらしい。
彼女は騒がれるのに、私は騒がれない。
それがとても悔しい。
当たり前のことだが、ミスコンが終わってから望月さんには告白が絶えなくなったらしい。
その前から密かに人気だったと噂もあったが、ミスコン以降、彼女の人気は大爆発。
私がそのポジションになるはずだったのに……。
めっちゃモテてイケメン彼氏をゲットしたい。
私にはそんな下心もあった。
席に腰かけて、ご飯を口に運ぶ。翠は相変わらず美味しそうにご飯を食べていたが、一度手を止めて珍しく小声で話しかけてきた。
「そういえば、もっちーに最近彼氏できたって噂知ってる?」
「え、そうなの?」
「まああれだけ人気なら、イケメンからも告白されるよね」
「そうだよね……」
悔しさがじわじわ滲んでいく。
私なんて、数人から連絡先を交換しようと言われただけで告白なんてされなかった。
「まあ、当たり前だよね。大学で一番の美人だからね」
「う、うん」
「そういえば、杏奈は最近彼氏とどう?」
思わぬ質問にカウンターを食らった。
実は見栄を張って、翠には彼氏がいると嘘をついている。その嘘は今も継続中だ。私は焦りを悟られないように話を続けた。
「ふ、普通かなぁ」
「普通って。写真すら見せてくれないじゃん」
「それは……」
付き合ったことなんてないからだ。と言えるわけもなく口を閉じる。
本当はミスコンで優勝して、モテまくって彼氏を作る予定だった。
計画の全てを望月涼夏に崩された。
恨んでも恨みきれない。
「本当に写真ないの……?」
翠はグイグイと近づいてきて、私の顔を窺ってくる。
これはやばい。
完全に疑われている……。
「彼氏写真撮るの嫌いでさー」
「でも、一枚もないのは変じゃない」
「……じゃあ、今週の土曜日近場で遊ぶから、ちらっと見に来たら」
「いいの!? 楽しみ過ぎる!」
翠はその後、ずっと上機嫌だったのでとりあえず乗り切ったようだ。しかし、考えなければいけないことが山積みになった。
※※※
完全にやってしまった……。
ただでさえも翠に嘘をついているのに、さらに嘘を重ねてしまった。
取り返しがつかない。
男友達に土曜日だけは彼氏のフリをしてもらおう……って私、男友達いないんだった……。
中学生の頃は恋愛に全然興味がなかったし、高校は女子校で出会いがなかったし。
私って馬鹿だ。
なぜ見栄張って彼氏がいるなんて言ったのだろう。
なぜ本当はいないんだって素直に言えなかったのだろう。
後悔しても仕方ない。
できれば避けたいけれど、こうなったら最終手段だ。
レンタル彼氏――。
私はネットで色々な情報を集め、レビューや評判から安全そうなサイトを探した。
見つけた中でもリーズナブルでイケメンの多そうなサイトを見つける。
知らない世界に足を踏み込んだ恐怖と、どんなイケメンとデートできるのだろうという高揚感と、二つの感情が入り乱れていた。
とりあえず偽名を使ってアカウント登録をして、サイト内を閲覧する。
選択肢が多すぎて目まぐるしい。
とりあえず下まで見てみようかと画面をスクロールする。しかし、指の動きをすぐに止めた。止めたというよりは、指が勝手に反応してたが正しいだろう。
あまりにも顔がタイプ過ぎる男性が画面の向こう側にいたのだ。
黒髪ストレートマッシュで笑顔がよく似合う人。
逆にこんなイケメンをレンタルしていいのだろうかと不安になるくらいのイケメンだ。
気がつけば私の指は予約のボタンを押していた。
押して数分もせずに、私の王子様から連絡が来る。
『杏さん、初めまして! キャストのリョウです。土曜日にお会いできること楽しみにしています!』
どうしよう!?
もう連絡が来た!?
焦ってスマホを落としそうになるので、しっかりと手汗まみれの手でスマホを握りしめる。
こういう場合、なんて返すべきなのだろう。
翠に相談しようか……って嘘がバレるからだめに決まっているだろう。
レンタル彼氏との距離感がわからない。彼氏だと思って接していいのか、友達くらいの方がいいのか。
変に動悸がして苦しい。
とりあえず、変な人だと思われないように適度な距離感で連絡を返そうと決意する。
『リョウさん、初めまして。杏です。レンタル彼氏初めてでとても緊張しますが、何よりも楽しみにして今週生きます!』
ちょっと重すぎる……?
まあ、これくらいの方が楽しみなことは伝わるだろう。
改めてリョウさんの写真を見て惚れ惚れする。優しそうだし、爽やかな雰囲気があるし。
ほんの少しやり取りをしただけなのに、私はたくさんドキドキさせられていた。
その後、リョウさんから注意書きが送られてきていたが、デートの場所と日時以外は読み飛ばした。
とりあえずこれで私の大学生活の一命を取り留めることはできそうだ、と安心して眠りについた。
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