第12話 魔境の横のじゃれあい
武器、無し。
防具、無し。
一切の飾り立てを捨て、ボスとの戦闘エリアへ足を踏み入れる。
実際に服を脱いでみると、洞窟の中は少し肌寒い。雪山生活で寒さに慣れたとはいえ、寒いものは寒いのだ。実際、寒さによる環境ダメージを無効化するパッシブを手に入れて尚、精神的には凍え死にそうだったしな。
「えー、言えることがあるとすれば一つ。死なないでくださいよ、師匠」
「誰にものを言っているのかしら? 私、強いわよ。少なくとも貴方よりはね」
「そりゃあもう十分知ってますとも。……だから言ってるんですけどネ」
自由に動き回れる程度の空間は、今更であるが結構明るい。理由は明白で、天井にびっしりと張り付いた水晶の膜が光り輝いているからだ。
そんな膜の一部にヒビが入る。
パキ、パキ、と嫌な音が鳴って────
二つのヒトガタが落ちてくる。
「右、二分で終わらせます。師匠は左を、終わったらすぐ加勢するんで」
俺はまっすぐ駆け出した。
落ちてきたヒトガタは二つともべしゃりと地面に倒れ伏し、そこから起き上がろうと地面に手を付く。何も変わってないな、こいつらは初手に最大の隙がある!
全身が青く輝く、水晶によって形作られた人間型のモンスター。
名を
「とりま……目標、百発!」
思考により
確かに命中したという手応え、そして、想定通り効いてない!
だが、これで良い。
拳を打ち込む、無心で、ひたすらに。
『実績【拳で戦う冴えたやり方】を達成しました』
『スキル【無形三連撃】を獲得しました』
オーケー、第一関門突破。自慢じゃないが、俺は『シナスタジア・オンライン』におけるスキルの入手条件をほぼ全て暗記している。
スキルの入手条件が実績の達成なせいで、RTAやるには必須だったんだよな。拳チャートを編み出し、一時期最速でラトを殴ってたのは俺です。
拳には一家言ありますよ俺。
ようやく拳を構え、岩が擦れるような奇っ怪な音を奏で始めた水晶人間。
またもや口には出さずスキルを使用。
使うのは勿論、さっき手に入れた【無形三連撃】。
しっかし遅いなあ、遅すぎる。コイツってこんなに緩慢な動きだったか?
────いいや、違う。本当に世界が遅くなっているのだ。
これまで確かにあった違和感と、疑問。
それ即ちスキル使用時の挙動。
ゲームでは当然、あらゆる行動が一律のモーションで管理されている訳だが、そりゃあ実際に異世界転生した場合には適応されない。モーションで管理するには、思考はちょっと邪魔すぎる。
ゲームを世界に落とし込む、というのは言うまでもなく難題だ。
そんな中、この世界が出した、スキルに対する一つの回答。
殴る。一発、二発、三発入れた所で、世界の速度が元に戻る。
「ナルホド。これ、連撃系のスキルは実質強化だな」
スキルを発動。殴らず蹴りを入れようとした瞬間、世界の速度は元通り。
スキルを発動。一発殴ってバックステップ。やはり速度は元通り。
規定の動きから大幅に外れない限り続く、モーション完遂までの時間遅延。
上手く使えば、実質的な思考猶予と判断時間の延長になる。発動した瞬間から体感時間で何秒続くかは検証次第だが、これは
まあ、連撃が使えたって現時点じゃダメージが入らないんだけど。
それでも殴っているのは、ある実績を取得する為。【無形三連撃】を五回、合計十五発に、スキルを使う為の精神回復で通常攻撃を五発。これを繰り返し。
俺を真似た水晶人間は残念ながら死ぬ程弱いので、特に意識しなくても脅威にならないサンドバック。故に、問題は流れ弾、ならぬ流れ槍オンリー。
「さっきから、私の技を勝手に────鬱陶しいわね。【星映マグナマター】
やっべ、今流れ槍オンリーじゃあ無くなった。
ラト師匠に残った最後の平和的スキル、最強クラスの回復魔法【星映マグナマター】が反転する。……ラスボスやってた頃のラトもやってたからよく知ってるよ。
元来の【星映マグナマター】は自らに温かな光のオーラを纏わせ、自分自身と触れた相手を継続的に回復するスキル。俺を何千回も再生させてきた便利なアレだ。
が、ラトのスキルは特殊なギミックが多い。四つというメインスキル枠の中で好き勝手させる為だろう、開発によるラスボスへの寵愛はいつもの事だ。
攻撃スキルの【星征アゼダラク】はチャージ時間による五段階の派生こと、解放。
本来、回復スキルでしかない【星映マグナマター】はスキル使用により効果が反転し、周辺へ継続ダメージを撒き散らす厄介極まりない攻撃スキルへと変化するのだ。
重油のようなドス黒いナニカが、ラト師匠の足元から溢れ出す。
空を舞う星雲の槍。地を這う邪毒の水。俺のような小市民に逃げ場など無い。
何が酷いって、これ、師匠を真似た水晶人間も同じ事をしてるんだよね。
……もし武器防具を回収できていなかったら、ここに理不尽範囲の薙ぎ払いまで追加されて俺の足がポンポンお亡くなりになっていただろう。
あー、嫌だ嫌だ。弱いとはこんなにも面倒だ。
飛び上がって邪毒を避けつつ、追従して飛び上がった水晶人間を殴り落とす。避けて殴っての繰り返し、火力不足が嫌になる。
『実績【無駄修行愛好家】を達成しました』
『スキル【最低保証】を獲得しました』
ま、火力不足ともこれでオサラバだが。パッシブスキル【最低保証】、獲得条件は1ダメージも入らない無駄な攻撃を100回行うこと。
効果、あらゆる攻撃のダメージの10%が防御力を無視する。
即ち、スキル名通りのダメージ最低保証。
これにより、間に合せのビルドが完成する。
【エンチャント:ファイア】は一定時間、攻撃に追加ダメージを付与するスキル。防御力のある相手には無力だが、お手軽条件での火力バフだ。
【無形三連撃】は高速の三回攻撃。入手条件は拳のクセに、あらゆる武器種で使える便利火力スキル。
この二つの組み合わせは優秀だ。なんたって三回攻撃全てに追加ダメージが付与されるからな、攻撃がいっぱい当たれば楽しい、世界の摂理!
問題は一撃の火力の低さ、悪名高き「ダメージ
それを補う【最低保証】。死ぬまで殴れば敵は死ぬ、を地で行くこのパッシブのお陰で手数型は息をしていると言っても過言ではない。
……他にも防御を無視する方法はある、というかありすぎるので、
殴る。殴る。殴り倒す。
水晶人間は素のステータスが全体的に低いお陰で、攻撃を外す心配はない。
唯一高いのは防御力だが、それも【最低保証】パイセンの前では無力!
となれば後に残るのは低HPのみ。
「グッバイ。それなりに楽しかったぜ、
流れ作業で拳を打ち込んでいると、突如水晶人間の動きが止まり、バラバラと崩れ落ちる。これにて終わり。
ま、俺のコピーなんて食前酒のようなもの。
真の問題は────
「【星征アゼダラク】解放Ⅲ────!」
『【□□□□□□□】□□□────!』
二つの拳が同時に振られる。
星雲の波動が拳を拡張し、そして、打ち消し合った。
やってらんねえって。
加勢するとは言ったけど、実質師匠同士が戦っている魔境空間に飛び込みたくはないな、などと考える俺なのだった。
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