第3話 忘れたい人
「……そう、なのですね」
そんな彼の言葉に、控えめに相槌を打つ私。……忘れたい人がいる、か。決して、珍しい類のお願いではないでしょう。実際、これまでにそのようなお願いをなさったお客さまもいらっしゃいますし。
「……それは、どのような方のことを……」
「……恋人、です。今からおよそ二年前、病気でこの世を去ってしまった大切な人で」
「……そう、なのですね」
ともあれ、控えめにそう尋ねる。すると、柔らかな微笑でお答えになるお客さま。ですか、
「……お気持ちは、痛いほどに理解致します。大切であればあるほど、そのご心痛がいっそう強くなってしまうことも。……ですが、だからこそ――それほどに大切だからこそ、尚のことお忘れになってはいけないのではないでしょうか?」
「……はい、店員さんの仰る通りです。ですが……それでも、どうしても耐えられなくて。それに……いえ、何でもありません」
「…………そう、ですか」
すると、やはり悲痛の色を湛えたままそう口にする優星さん。……ええ、分かりま……いや、よそう。彼の悲痛は、私の想像を遥かに越えるものなのかもしれないのですから。……ただ、最後に何を言いかけ……いえ、これも控えておきましょう。気にはなりますが、彼自身が
「……かしこまりました、お客さま。微力ながら、ご期待に添えるよう誠心誠意努めさせていただきます」
「……っ!! ありがとうございます、店員さん!」
そうお伝えすると、パッと顔を輝かせ感謝を告げてくださるお客さま。……うん、そのような
さて、ひとまずご注文を……と言いたいところではありますが、その前に――
「……畏れ入りますが、お客さま。よろしければ、お名前をお聞かせいただけませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます