四季折々の喫茶店
暦海
第1話 斎月さんと私
「――おはようございます、
「うん、おはよ〜
「……あの、斎月さん。あと一時間でお客さまを迎えるというのに、その締まりのないご様子はいかがなものかと。しゃきっとしてください、しゃきっと!」
「ちぃ〜っす、しゃきっ」
「うん、駄目だこの人」
小鳥の声が心地好く鼓膜を揺らす、澄み切ったある朝のこと。
そう、今日も元気にご挨拶をする私。なのに、肝心のお相手のこの締まりのないご様子はいかがなものでしょう。しゃきっとしてください、しゃきっと!
さて、この辺りで簡単なご紹介を。私は琴水――14歳の女の子で、当喫茶『
「……それにしても、斎月さん。もう何度も口を酸っぱくして言っていますが、そろそろちゃんと整えたらいかがですか? そのボッサボサの髪の毛」
「え〜、だってほら面倒くさいし。それに、誰も気にしないよ、僕の見た目なんて」
「……そんなこともないかと思いますが。全く、折角の綺麗なお顔立ちなのに……」
「そうかな? ところで、琴水ちゃんはいつも綺麗に整えているよね。うん、立派な心がけだ」
「……そ、そうですね。ほら、お客さまの前に出るのにボッサボサではいけませし、それに……」
「……それに?」
「……いえ、何でもないです」
その後、開店の準備をしつつ閑談を花を咲かせるわたし達。こんな感じに身だしなみに頓着な人ではありますが、本当に綺麗なお顔立ちをしていてスタイルもすこぶる良く……全く、もったいない。
……まあ、別にいいと言えばいいのですが。頓着がないとは言っても、お客さまを不快にさせる感じではありませんし……実際、人気も高いですし。なので、これ以上モテたらそれはそれで困りますし。
「……それじゃあ、今日も張り切って……はあぁ、張り切っていこうか」
「……いや、
ともあれ、そうこうしているうちにいよいよ開店の五分前に。そして、何とも締まりのない感じでそう口にする斎月さん。……いや、欠伸しちゃってるじゃないですか。しゃきっとしてください、しゃきっと!
ところで、当喫茶『鏡花乃音』についてですが――霊験あらたかな御山の中腹くらいに控えめに佇む、和の雰囲気がとても心地の好い喫茶店で。外からの光がほどよく射し込んでくるので、内部の明かりとしては最低限の灯火がほんのり揺れる程度です。
そして、山の中ということもあり、春には桜、夏は紫陽花、秋は紅葉、冬は雪といった具合に四季折々に個性豊かで魅力的な姿を見せてくれます。そして、優しく響く鳥や虫の鳴き声もほっと心を癒やしてくれます。この山も、お店からの景色も、そしてお店そのものも、とにかく全てが大好きです。……ですが、私がここにいる一番の理由は――
「……ん? どうかした? 琴水ちゃん」
「……いえ、何でもありません」
すると、きょとんと首を傾げ尋ねる斎月さん。扉の前から、カウンターの向こうにいる彼をじっと見ていたからでしょう。……まあ、気づいているとは思っていませんが。
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