第三十七話 “声”を宿す者&第三十八話 “短時間の未来視”復活

遥斗が白い未来線に触れた瞬間――

黒蒼の闇が裂け、

その奥から“声”が流れ込んできた。


それは人間の声ではなかった。

性別も感情も曖昧で、

しかし確かに“意志”を持つ何か。


――……やっと、繋がった……


遥斗の全身が震えた。


(第三の……操作者……?)


――おまえはよく抗った。

――黒蒼を拒み、未来を求めた。

――ならば、おまえは“器”としての価値がある。


「……黙れ……!」


遥斗は頭を押さえる。

脳内に響く“声”は、まるで深淵そのものの冷たさだった。


アーリアの叫びが遠くで聞こえる。


「遥斗!? 黒蒼の“声”が侵入してるの!?

抵抗して! 同調したら――!」


――遅い。


黒蒼の声が低く笑う。


――おまえは未来を掴みたい。

――その渇望こそ、我らが求める素質。


(違う……そんな力なんか……!)


――否定しても無駄だ。

――おまえが望んだ“未来を取り戻す方法”を、私は知っている。


(……なに……?)


――黒蒼に“選ばれた者”だけが使える、

 未来図の再構築だ。


アーリアの声がさらに強く震えた。


「遥斗! 聞かないで!

黒蒼の操作者は、未来を“壊す”ことでしか再構築できないのよ!」


だが――

黒蒼の声は、静かに囁くように続けた。


――だが、おまえは違う。

――白銀の未来線を掴んだおまえは、二つの因子を併せ持つ。


(……二つ……?)


――白銀は“未来を守る力”。

――黒蒼は“未来を変える力”。


――その両方を使えるのは……

 この世界で《おまえだけ》だ。


アーリアすら言葉を失った。


(もし、それが本当なら……)


遥斗の心が揺らぎかけた瞬間――


白銀の光が爆発した。


アーリアが全魔力で干渉を遮断する。


「遥斗! 戻って!

黒蒼の声と繋がり続けたら、もう引き返せなくなる!」


遥斗は深呼吸し、

白い未来線を――強く握りしめた。


「お前の声なんかに……未来は渡さない!」


――ほう。

――ならば存分に抗うがいい。

――“未来予知の芽”が残っているうちにな……


黒蒼の声は、霧散するように消えた。





ー世界が反転し、光が戻る。ー






「……はっ……!」


遥斗は現実へ引き戻された。

膝をつき、荒い息を吐く。


アーリアが駆け寄る。


「遥斗、大丈夫!? どこか痛む? 意識は?」


「だ、大丈夫……黒蒼は切った……」


だが胸の奥で、

白銀の光がかすかに明滅していた。


アーリアの目が見開かれる。


「その光……まさか……」


遙斗は、ふらつきながら立ち上がる。


そして――

“見えた”。


アーリアが驚いて駆け寄る未来。

天井から落ちる小さな破片。

次の一歩を踏み出す自分。


「……未来が……見えてる……?」


アーリアが息を呑む。


「復活してる……!

ただし……一分以内、極めて短い“未来予知”だけど!」


「十分だ……

俺は……まだ戦える……!」


未来視は完全ではない。

しかし明らかに――

失われた力の“残り火”が甦っていた。


アーリアは真剣な瞳で遥斗を見つめる。


「遥斗……黒蒼の操作者の声、まだ残ってる?」


「……わからない。

でも……俺の未来は、俺が選ぶ」


「……なら、私も付き合うわ。

あなたが望む未来にたどり着くまで。」


未来視が再び灯った今――

第三の操作者との決着は避けられない。


そして、紗雪の気配もまた……

深淵の奥で確実に近づいていた。

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