第三十五話 白翼との再会と“禁じられた訓練”

白翼との再会と“禁じられた訓練”**


政府の特殊研究施設――

白い羽を持つ少女、アーリアは静かに立っていた。


「……来たのね、遥斗。」


柔らかな笑みだが、深淵崩壊の傷はまだ消えていない。

その羽根の端には、微かに揺らぎが残る。


遥斗はまっすぐに言った。


「アーリア。未来因子を取り戻す方法を教えてくれ。」


アーリアは透明なプレートを取り出し、


「本来なら、これを使うのが正しい道よ。

“段階的な安全訓練”。

一ヶ月もあれば――」


「それは……いらない。」


アーリアの言葉は静かに遮られた。


「……どういう意味?」


遥斗は拳を握った。


深淵での戦い。

紗雪に救われ、アーリアに導かれ、

第三の操作者から命を拾われ、

結局、最後まで誰かの背中に守られ続けた自分。


思い返すたび、胸が痛む。


(助けられてばかりで……何の力も返せていない)


「俺は……また助けられて終わりたくないんだ。」

「紗雪にも、アーリアにも、誰にも。

自分の足で立てる未来を……取り戻したい。」


アーリアの瞳が揺れる。


「それが……理由?」


「それだけだ。」


アーリアは深い息を吸う。


「……なら、ひとつだけ“禁じられた方法”がある。

白銀因子の残滓を持つあなたなら……

形だけは成功するかもしれない。」


彼女は床を指でなぞる。


淡い光の魔法陣が浮かび上がった。


「これは《因子強制逆流(リバース・リコール)》

失われた未来因子を“強制的に呼び戻す”儀式。

未来を視る回路を痛覚で直結して開く……

廃棄された危険術式よ。」


「使えるなら十分だ。」


アーリアは鋭い声で言った。


「遥斗!

これは“未来を見るたびに精神が削れる”訓練よ!

多分、あなたの身体は持たない……!」


「だったらなおさらやるべきだろ。」


遥斗は一歩踏み込む。


「……俺はもう、誰かの後ろに隠れていたくない。

守られる側じゃなく……

自分で選んで、自分で掴みたい。」


沈黙。


アーリアは、まるで泣きそうな顔で遠くを見た。


そして――小さく頷く。


「……あなたがそこまで言うのなら。

覚悟を決めて。」


立入禁止区域の鉄の扉が開き、

凍えるような空気が流れ込む。


「ここが“逆流訓練”の部屋。

……みんな失敗して、帰ってこなかった場所。」


遥斗は白銀の魔法陣へ踏み出す。


「俺は帰るさ。

自分自身に……胸を張れる未来のために。」


アーリアは震える声で告げた。


「遥斗――

あなたは、私が知っている誰よりも危うくて……

誰よりも強い。」


「始めるわ。」


白銀の光が爆ぜ、

遥斗の意識は“未来の深淵”へと逆流していく。

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