第二十七話 深淵衝突Ⅵ――紗雪、介入

砕け散った未来の破片が深淵に降りそそぐ。

白い光を纏った遥斗は、立ち尽くす第三の操作者を睨み据え――


――その瞬間。


蒼と赤の未来線を切り裂くように、

“第三の色”が深淵に走り込んだ。


氷のような白銀の未来線。


「――いや。

それ以上は……ダメだよ、遥斗。」


紗雪だった。


◆ 紗雪、深淵へ介入


彼女の足元では、白銀の未来線がゆらゆら揺れている。

その線は、遥斗でも第三の操作者でも触れなかったはずの

“深層域の奥底”へと繋がっていた。


第三の操作者が微笑する。


「来たね……紗雪。

君なら分かるはずだ。

このままでは——遥斗は」


紗雪は彼を遮った。


「黙って。」


白銀の線が鋭く揺れ、第三の操作者に触れようとする。

彼は一歩下がり、口元を歪ませて笑う。


「相変わらず……遥斗だけは特別なんだね、君にとって。」


紗雪は何も言わず、ただまっすぐ遥斗へ向き直った。


◆ 紗雪の訴え


遥斗は荒い息をつきながら紗雪を睨む。


「……来るな紗雪。

これは――俺自身の選択だ。」


「分かってる。」

紗雪は静かに首を振る。

白銀の未来線が彼女の背後で波打った。


「でも遥斗。

“未来破壊”を続ければ、あなたの未来因子は崩壊する。

……あなたが、“あなた自身でなくなる”。」


遥斗の手が微かに震えた。


未来を破壊する感覚――

その快感にも似た強い反動が、身体を内側から削っている。


それでも遥斗は後ろへ引かない。


「紗雪……俺は――

誰にも未来を決めさせない。

それが……俺の選んだことだ。」


紗雪は目を伏せた。


「……うん。

分かってるよ。

遥斗は、昔から全部自分で抱え込む人だもん。」


白銀の未来線が、ふいに空間いっぱいに広がった。


「でもね――」

紗雪の表情が変わる。

それは、遥斗が知る“柔らかい紗雪”ではなかった。


「あなたの‘自由意思’を守るためなら――

私はあなたを止める側に立つことだって出来る。」


遥斗の瞳が揺れる。


「……止める? 紗雪が?」


紗雪は首肯した。


「未来破壊を続けたら……あなたは選択そのものを失う。

何でもできるように見えて――

本当は、何も選べなくなる。」


白銀の未来線が、蒼い線へ接触しようと伸びる。


◆ 未来線 vs 未来線


第三の操作者が楽しそうに笑った。


「さあ……どうする、遥斗?

紗雪は君を守るために……君を止めに来たんだ。」


遥斗は歯を食いしばる。


蒼い未来線が彼の背後で鋭く振動している。

紗雪の白銀の線は、穏やかにだが確実に包み込むように迫る。


――このままでは衝突する。


「紗雪……どいてくれ。

俺はまだ、やれる。」


「やれるかどうかじゃない。」

紗雪は遥斗に手を伸ばす。

指先のわずかな距離――

その空間で未来が揺れた。


「遥斗が、“遥斗でいられるか”どうかだよ。」


遥斗の心臓が音を立てた。


その一瞬、蒼い未来線がじり、と弱まる。


第三の操作者が囁く。


「感情で揺れるようなら……君はまだ“未熟”だ。」


遥斗は拳を握った。


「未熟で悪かったな……

でも俺は――引かない。」


蒼い未来線が再び光を強める。


紗雪の白銀線も、遥斗を包むように広がる。


その刹那――


深淵全体が震えた。


蒼と白銀の未来線が交差し、空間に巨大な亀裂を生んだ。


第三の操作者が目を見開く。


「……これは――!」

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