第3話 【中編:記念写真と、甘い罪の夏】

 禁じられた宇宙(ユニバース)

登場人物: 沢村 遥(17)、坂口 健(20)、篠田 悠斗(17/声のみ)

場所: 深夜のドライブ(坂口のバイク)

郊外の公園 効果音: バイクのエンジン音、夜風、坂口の笑い声、悠斗の電話の着信音


(SE:坂口のバイクが風を切る音。ヘルメットを被った遥の呼吸音)



(モノローグ) 悠斗は、私にとって安心できる「手に届く宇宙」だった。でも、坂口さんのバイクの後ろで見る夜景は、あまりにも速く、鮮やかで、私を未知の世界へと連れて行った。その背徳感こそが、私が求めていた「大人の階段」の刺激だったのかもしれない。


坂口(バイクを止める。ヘルメットを取り、遥に話しかける)


着いたぞ。ここ、地元じゃ有名なんだ。専門学校の連中とよく来る。



(バイクを降りて、周囲を見回す) ここ……高校生は来ちゃいけない場所って感じがする。


坂口


正解。お前はもう、境界線を越え始めている。悠斗くんとの旅行は、お前の境界線の内側だ。俺が示してるのは、その外側だ。



坂口さんは、どうしてそんなに悠斗のことを気にするんですか?


坂口


(タバコに火を点ける。一瞬の静寂)

 奴はな、あまりにも無邪気な笑顔すぎて、見てるとイライラするんだよ。幸福は誰かがきっと 運んでくれると信じてるね、って顔してる。お前もだ。



(胸を突かれたように) ……!


坂口


 大人の階段昇るってのは、誰かに何かを期待するんじゃなく、自分で選んで、自分で責任を取るってことだ。俺は、お前にその選択をさせてやりたいだけだ。



その時、私のポケットで、悠斗からの着信音が震えた。北海道旅行の相談だろう。その純粋な光が、坂口さんの影と、激しく衝突した。


(SE:悠斗の電話の着信音。少し長く鳴る)


坂口


(着信音に気づき、静かに遥を見つめる) 選択しろ、遥。



(スマホをポケットに押し込み、震える声で) いい……出ない。私は、もう、シンデレラじゃいたくない。


坂口


(満足そうに笑い、遥の顔を両手で包む)

そうか。これで、お前はもう一人の大人だ。


(SE:キスの音。周囲の環境音が一瞬遠ざかり、遥の鼓動だけが大きく響く)



あのキスは、悠斗への裏切りであると同時に、「少女」だった私への訣別でもあった。私は、悠斗との「想い出がいっぱい」な日々を、坂口さんとの秘密と引き換えに、自ら汚してしまったのだ。


 破られた誓い(大学入学前の別れ)

登場人物: 沢村 遥、篠田 悠斗

場所: 高校卒業直前。駅前の寂れた喫茶店。

効果音: 喫茶店のざわめき、コーヒーカップの音、雨の音(卒業シーズン特有の湿った空気)


(SE:喫茶店のドアベルが鳴り、悠斗と遥が向き合って座る。二人の間に重い沈黙)


悠斗


(硬い声で) コーヒー、冷めちゃうぞ。……話そう、遥。全部、話してくれ。



(視線を落としたまま) ごめん、悠斗。どう話せばいいのか……


悠斗


「一人だけ横向く 記念写真」。あの写真の意味、やっとわかったよ。お前は、あの時からもう俺を見てなかったんだ。あのバイトで、坂口健と何をしていたんだ。



(ハッと顔を上げる。声に動揺が走る) なんで……どうして、知ってるの……?


悠斗


バイトのリーダーに電話して、聞いたんだ。俺がバイトを辞めた後も、お前と坂口さんが深夜残って、二人でいることが多かったって。「二人は何かあるんじゃないか」って。……それでも信じたくなかった。



悠斗の言葉は、私の心を抉った。私は、彼が私を信じていることに甘えていた。彼の純粋さが、私の罪を暴いたのだ。


悠斗


 俺、あの時、お前との旅行、すごく楽しみでさ。北海道で、ちゃんとお前にプロポーズしようと思ってたんだ。

まだ高校生だけど、それでも、お前との未来を、時は無限のつながりで終わりを思いもしないね、って信じてた。



(涙が溢れる) 悠斗……ごめんなさい。


悠斗


 謝罪はいらない。真実だけを教えてくれ。お前、坂口さんとキスしたのか?



(声にならない嗚咽) ……うん。


悠斗


(深く息を吐き、静かに笑う。その笑い方は、泣いているようにも聞こえる)

 そうか。……俺の「無邪気な笑顔」は、もう、消えたな。

 お前は「大人の階段」を昇ったつもりだろうけど、それはただ、俺を裏切ったっていう、「罪の階段」だよ。



 悠斗のその言葉が、私の心に、一生消えない傷痕(スカー)を刻んだ。彼を裏切ることで、私は自由を掴んだと思っていた。だが、掴んだのは、過去への後悔という重い足枷だった。


悠斗


お前、大学、頑張れよ。俺とはもう、二度と会うな。俺にとって、お前との思い出は、今日で終わる。少女だったと懐しく 振り向く日があるのさ……俺は、もう振り向けない。


(SE:悠斗が立ち上がり、椅子を乱暴に引く音。ドアベルが鳴り、悠斗が店を出ていく。遥の嗚咽だけが残る)



 私は、悠斗との「永遠」を、たった一度の「大人の階段」の誘惑と引き換えに、自ら破棄した。あの夏、坂口さんが私に教えてくれたのは、「孤独」と「後悔」だけだった。

彼は、私の人生から、まるで最初から存在しなかったかのように消えた。そして、私は、この罪の傷痕を抱え、誰も知らない東京の大学へと向かった。


ACT. 7残された傷痕(スカー)と新たな出会い

登場人物: 沢村 遥、沢田 啓介(現婚約者/声のみ)

場所: 大学のキャンパス、サークル室(数年後)

効果音: キャンパスのざわめき、サークルの賑やかな音


(SE:場面転換のノイズ。数年後の賑やかなキャンパスの喧騒)



私は、東京で新しい自分を演じた。「過去」を持たない、明るく、自立した女性。誰にも頼らず、自分で幸福を掴む「大人」。


(SE:サークル室の賑やかな会話。啓介が遥に話しかける声)


啓介(回想・穏やかな声)


遥さん、いつも頑張りすぎてない? ちょっと休んで、俺と一緒に飯でも行かない?



 大学2年の終わり。サークルで啓介と出会った。啓介は、悠斗の一途さとは違う、さっぱりとした大人の優しさを持っていた。彼は、私の過去を詮索しない。私を「シンデレラ」扱いもしない。


啓介


俺が遥に幸福を運んでやるなんて大それたことは言わないけど、隣で一緒に笑うことはできるよ。



 私は、啓介の「安心感」に惹かれていった。彼の存在は、悠斗を裏切った私の傷痕を、そっと隠してくれる包帯のようだった。

私は、この「安らぎ」こそが、私がようやく辿り着いた「大人の愛」だと信じたかった。


(SE:場面転換のノイズ。再び、現在の夜の公園。車の音)



そして今、私は啓介との結婚を前に、あの時封印したはずの「想い出がいっぱい」な日々、そして悠斗の壊れた笑顔の残響に、再び囚われている。


(BGM: H2O's "Omoide ga Ippai" instrumental plays loudly, then fades out)




▶▶▶▶▶▶


【作風思案中】


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感想や、誤字脱字のご指摘待っています。イラスト生成する際の閃きやヒントに繋がります。


  宜しくお願いします。

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