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午後三時を超えた辺りから、私の集中力は急激な下落を迎える。何のやる気も起きないし、指先一つも動かしたくないし、画面も見たくない。そうして思考が一切動かなくなると、物思いに拭ける事がある。人の独り言を拾うべきか否か。今は愛想があるか、ないか。

まぁどうでも良い。今は誰からも迫られていないのだから、自分のペースで走ろう。


人間が好きな様で、嫌い。予測不可能な様で筋が通っている。其れが俺と彼奴の使用するAIが齎した性格分析である。決して何方にも寄り付かず、決して何方にも傾く事はせず、その中間の当たりをいつもフラフラと彷徨っている。

そんな彼奴が今日も帰ってくると、何時もの様に家支度を済ませ、俺の前に腰掛けた。

「なんかさぁ……」

惣菜の筑前煮を突っつきながら、其れを右頬の隙間に押し込めながら、鏡花は徐に口を開いた。声は何処かアンニュイで、日々の疲労が僅かに滲み出ている。

「何処まで愛想売らなくて良いのか、たまに分からなくなら……いや……瑠衣たんは、何時も無愛想だから的確な答えが帰ってくる訳ではないのか……」

「お前、たまにナチュラルに喧嘩吹っ掛けるよな」

そうそう。鏡花の話によると、幼少期は引っ込み思案の性格から非常に孤独だった様だ。だから今もこうして人格揃えて外で戦い続けている訳だが、たまにこんな事を思う。如何せん、孤独だった期間が長すぎて、孤独に慣れてしまったか、人間嫌いなのではないかと。

疲れている時の鏡花は物言いが鋭くなる。やや眉間に皺を寄せて、怠そうに、『私に関係ある?』、『私に責任負わせないで欲しいんだけど〜……』とため息混じりに吐き捨てることもある。

人の悪い所を人並み以上に見てしまっているから、奥底ではやはり嫌いなのかも知れない。

「元気だったら愛想売ってあげるけどさぁ、其れを当たり前と思わないで欲しいよね〜」

やや傲慢な、彼奴の言葉。けれども『愛想を売ろう』と思える時点で、それなりに人の愛はありそうだった。

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