第1話
「ほんと、陰気な子」
着物の襟を正しながら、祖母が言った。
祖父は慌てて里早を見たが、何もなかったように、
ボストンバッグの固いチャックを閉めていたので、ほっと溜息をついた。
「荷物はあと、どれくらいあるんだ?」
「あと、ひとつです」
私は最後の荷物を取りに、二階の部屋へと向かった。
「里早に聞こえたらどうするんだ。まったく、お前ってやつは」
居間から、幽かに祖父の声が聞こえてきた。
きっと祖母は、ぐちぐちと反論している違いない。
この祖父母の家での暮らしが始まったのは、6年前。
私が小学6年生の頃だった。
神奈川県鎌倉市出身の私にとって、
方言が強いこの土地に馴染むのには、かなりの時間を要した。
ただでさえ、しゃべっている内容を理解するのに苦労し、
同級生から面倒臭さがられていたというのに、私の使う言葉の受けがすこぶる悪く、
気取っているだの言われ、中々友達も出来ずにいた。
そういえば出だしから、よくなかった。
その日は全国的に天気が悪く、もちろん鎌倉にも雨が降っていた。
どんよりとした景色の中を、11歳の私と祖父は、
肩をびしょびしょに濡らしながら鎌倉駅に向かって歩いた。
電車の中では、じっとりと水分を含んだ服を膝に抱え、
スカートから伝わってくるその湿り気に、
これから始まろうとする新天地での生活に対する私の不安は、
大きいものになっていった。
その年は、もう春だというのに、厚手の上着が手放せない日々が続いていた。
福岡県北九州市にある祖父の家での新しい生活は、
天気も私の心も晴れる日がなく、厚い雲が重く蓋のようにのしかかっていた。
それでも、ここでの生活を送るしかない私は、順応するよう努力をした。
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