第52話-------「デュエット」 〜夢がひとつになる夜〜



幕間 ― 静寂の中で


東京ドーム。

ステージの照明が一度、すべて落ちた。


観客は息を呑み、

闇の中に次の瞬間を待っている。


静寂。

そして、微かに聞こえるピアノの旋律。


ゆっくりと光が戻り、

そこには――

白と金の衣装を纏った二人の女性が立っていた。


母と娘。

のどかとまどか。


観客の歓声が、一瞬で涙に変わる。


二つのマイク


「……みんな。聴いてください。」

まどかが小さく言う。


「この曲は、母と私が一緒に作った曲です。

タイトルは――『Promise Song』。」


のどかが隣で頷き、マイクを握る。

その手は、ほんの少し震えていた。


まどかが優しくその手を包む。


「大丈夫。母さんの歌は、ずっと届いてる。」


のどかは目を閉じ、深呼吸。

そして、最初の一音を放った。


「Promise Song」


> ♪

小さな手で 空を描いた

あの日の夢 まだ覚えてる?


涙の数だけ 強くなれたね

今なら言える ありがとう


のどかの声が、柔らかく響く。

母の声は、優しくて温かい――まるで春風のようだった。


そこへ重なるように、まどかの透明な声。


> ♪

受け継いだ歌を 明日へ運ぶ

つないだ手が 光になる


もう一度だけ 伝えたい

“大好きだよ”――ママ


観客の涙が止まらなかった。

ステージの上で、二人の歌声が重なり、

まるで母と娘の心が一つになるように響いていた。


光のステージ


サビへ向かうと、ステージ全体が金色に輝く。

頭上には巨大なスクリーン。

そこには、二人の過去の映像が映し出されていた。


のどかが初めて娘を抱いた日。

まどかが初めて歌った日。

二人が並んで笑った日々。


それらすべてが、音楽と共に流れていく。


そしてサビ。


> ♪

夢を見せてくれた人へ

今度は私が夢を見せる

光をつないで 歌うよ

永遠に続く“Promise Song”


観客のペンライトが波のように揺れる。

その光の海の中で、

のどかとまどかは見つめ合い、同時に微笑んだ。


最後のハーモニー


ラストのフレーズ。


> ♪

またね、笑って――未来で会おう


母と娘の声がぴたりと重なり、

天井から無数の光が降り注いだ。


それはまるで、

星がふたりを祝福しているかのようだった。


音が消えた瞬間――

観客は一斉に立ち上がり、

5万人分の拍手と涙が、嵐のように会場を包んだ。


ステージの上で


のどかがマイクを置き、

まどかをそっと抱き寄せた。


「……ありがとう、まどか。

こんな日が来るなんて、夢みたい。」


「私こそ……母さんと歌えて、幸せだよ。」


涙を拭いながら、

二人は観客に向かって深く頭を下げた。


「これが、私たちの――約束の歌です。」


🌅 幕が降りる前に


のどかがステージ中央で最後に一歩、前に出た。


「この歌を聴いてくれたすべての人へ。

どうか、あなたの中にも“光”が生まれますように。」


そして、ゆっくりと手を振る。

照明が落ち、

母と娘のシルエットが金の光の中に消えていく。


その瞬間、

世界中のスクリーンに字幕が浮かんだ。


> 『夢は、終わらない。

 歌は、永遠に。』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る