ハズレ枠の【デバッグ】スキルで追放された俺、世界のバグを修正したら「管理者権限」を手に入れた件 ~修正報酬でステータスが無限に伸びるので、英雄たちをステータス編集で無力化します~【短編版】
いぬがみとうま🐾
第一話 エラーコード:追放者
湿った石畳に、唾を吐き捨てる音が響いた。
地下迷宮特有の、カビと鉄錆が混じった空気が肺を撫でる。
「聞こえなかったのか? 荷物を置いて失せろと言ったんだよ、アルト」
頭上からの声は、呆れるほど朗らかで残酷だった。
見上げれば、黄金の髪を揺らす青年――Sランクパーティ『栄光の翼』リーダー、勇者カイル。
背後の魔導師と重戦士も、汚物を見る目でこちらを見下ろしている。かつて「仲間」と呼び合った者たちの視線だ。
「……本気か。ここは『奈落の迷宮』の七〇階層だぞ。ソロでの生還なんて不可能だ」
僕は努めて冷静に返した。感情的に喚いたところで、生存確率は上がらない。
カイルは大袈裟に肩をすくめた。
「だからこそだよ。お前のそのゴミスキル――【デバッグ】だっけ? 壁のシミを見てブツブツ言うだけの無能は、気が散るんだ」
カイルが僕の胸を革靴で蹴り上げた。
肺から空気が漏れる。
「それに、お前がパーティの経験値を吸ってるんだろ? 俺たちの成長が遅いのは、寄生虫のお前がいるせいだと神父様も言っていた」
不純物。その言葉が胸を刺す。
寄生などしていない。彼らが気づかない致死の罠を、この【デバッグ】の眼で回避させてきたのは僕だ。だが、その功績はすべて「カイルの勘」に変換され、僕の警告は「臆病者の戯言」と処理されてきた。
「装備を置いていけ。俺たちの金で買ったものだ」
抵抗する間もなく、短剣とポーチを奪われる。残されたのは擦り切れたローブと、油の切れかけたランプだけ。
「じゃあな。精々、スライムの餌にでもなって社会貢献してくれ」
嘲笑と共に転移水晶が光り、彼らは消えた。
残されたのは、圧倒的な静寂と闇。
◇
死ぬのだろうか。
ランプの灯りが心許なく揺れている。壁に背を預け、冷え切った石床に座り込む。
空腹よりも、乾きよりも先に、絶望という名の冷気が内側から身体を侵食していた。
「……合理的じゃないな」
口をついて出たのは、そんな言葉だった。
僕が死ぬこと自体は、生態系においてさほど珍しいことではない。弱者が強者に食われる。ただそれだけの現象だ。
だが、納得がいかない。
なぜ、正しい指摘をした者が排除され、感覚だけで動く者が称賛される?
この世界は何かが狂っている。以前から感じていた違和感が、死を前にして確信へと変わっていく。
その時だった。
闇の奥から、粘着質な音が響いた。
ズルリ。ベチャリ。
液体が岩を這う音。酸っぱい異臭が鼻をつく。
ランプの灯りが、不定形の怪物を照らし出した。
アシッド・スライム。
初心者向けの雑魚ではない。触れたものすべてを数秒で溶解させる、七〇階層特有の捕食者だ。勿論、強敵。
逃げ場はない。武器もない。
アシッド・スライムが獲物を見つけ、体積を倍に膨れ上がらせて飛びかかろうとした、その瞬間。
――ブツン。
世界が「粗く」なった。
高精細だった壁がポリゴンの塊に見え、スライムの動きがコマ送りのようにカクつく。その身体から緑色の文字列が滝のように溢れ出した。
『警告。管理者権限の空白を検知。予備システムを起動しますか?』
脳内に響く無機質な声。目の前に浮かぶ青いウィンドウ。
幻覚にしては悪趣味だ。だが、その光は確かに網膜を焼いていた。
「……イエス」
選択の余地などない。僕が呟くと同時に、世界が裏返った。
『承認。ユニークスキル【デバッグ】を【世界改変システム】へアップデートしました』
視界が「
襲いかかるスライムは、無数の数式と幾何学模様の集合体だった。その中心核に、赤く明滅する亀裂が見える。
Error:Texture_Collision_Fail
意味はわからない。だが直感が告げる。あそこが「穴」だ。
僕はスライムの核へ向けて、人差し指を突き立てた。
「
パァンッ!!
スライムが爆ぜた。
肉片ではなく、光の粒子となって霧散したのだ。断末魔さえ上げる暇もない、完全なるデータ消去。
直後、体の中を灼熱の奔流が駆け巡った。
『バグの修正を確認。修正報酬を付与します』
【レベルアップ:Lv1⇒Lv50】
【全ステータスが+5000されました】
筋肉が、神経が、鋼鉄のワイヤーのように編み直されていく。冒涜的なまでの進化の快感。
視界が鮮明になり、遠くの水音が隣で鳴っているかのように聞こえる。
「これが……報酬?」
足元に転がるただの石ころ。その情報ウィンドウを指で弾く。
CommonをLegendaryへ。StoneをOrichalcumへ。
石塊が青白く輝き、神話級の金属、オリハルコンへと変貌した。
「はは……」
乾いた笑いが漏れる。
勇者が一生かけて手に入れる力を、僕はたった数秒の「修正」で手に入れた。カイルたちの「才能」や「努力」など、書き換え可能なテキストデータに過ぎないじゃないか。
頭上の天井を見上げる。その遥か上には、僕を追放したかつての仲間たちがいるはずだ。
僕の瞳に走る青い光が、空中のパラメータを捉える。
「見えるぞ。あいつらの『幸運値』も、全部俺が書き換えられる」
さあ、デバッグの時間だ。まずは、この間違った世界で一番大きな「バグ」から修正してやろう。
――
短編全4話です。
(1日2話投稿)
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