第5話 飛行準備シーケンス起動。搭乗者ミーコ、いきたいんだもん
胸部の隙間が完全に閉じる。
それに合わせて水色のスライムのような物は装甲のすべての隙間を埋めて硬化した。
「……埋まったな」
「埋まりましたね、先生。一瞬で」
これで、我々には、中を窺い知る手段が無くなってしまった。
「先生、あれって……魔導緩衝材(ゲル)ですよね? ポチの質量が動くときの衝撃から、中のミーコさんを保護するための」
カズマが静かに私に言った。やっと、さんをつけたか。
「水色の触手が、ミーコ君を取りこんだのか?」
思い出に浸って私が見落とした場面を、カズマに確認する。
カズマはその通りですと頷いた。
「あの水色のスライム(仮)は、魔導緩衝材と搭乗者(ミーコ君)の昇降手段としての触手、そして生体パーツ(ミーコ君)とポチとの神経接続器の3つの役割があるという事だな」
ここまでは現状のポチの状態から容易に推測できる。
助手は、頷く。偉そうなので、少し本人の意見を語らせてみる。
「おそらく、頭部の発光した時、内部のスライム(仮)のコアが、起動したのでしょう。コアの所在は不明ですね。それと装甲内にスライム(仮)を急成長させたエサ、いわゆる魔力の蓄積、そうか魔石があるのでしょう」
「手堅いなぁ、自由に語ってもだれも責めないのに、女性に対してもそうじゃないかい?」
「じゃ、せ、先生のご意見を教えてください!」
こいつ、男と人形には、強いな。
(しょうがないなぁ)
そう思って口を開こうとした時、頭の上から大きな声がした。
「あ、先生、見つけ!」
「ミーコ君?そうか、ようやく馴染んだか」
私は、ポチの黒光りする胸部を触った、ほんのりと暖かい。
「ヤマダ、ちゃんとセンサー見とけよ」
「ばっちりです」
なにが、ばっちりだか。
「手足は付いてるか、胸は大丈夫か、ミーコ?」
「誰ですか?いきなり、そんな変な事をいうのは?」
「助手のカズマだ」
こいつは、距離感が分からんのかな。
とりあえずカナリアとして使おう。
「それで、無事なんだね、良かった心配したよ。それで、中はどうなっている?」
「周りは、水色ばっかりですね。私も水色の中にいるって感じです」
「明るいのかい?」
「はい、目の前が外みたいです?」
なるほど、外が見えるのか。想定通りだな。
「それより、外に出して下さいよ」
「な、なにか、まずい点があるのかな?」
「もしかして、身体の穴に神経接続器がぶっささってるのか?」
いきなり、ポチの身体が、少し動く。
「落ち着いてくれ……ミーコ君」
あわててポチから距離を取る。
見上げると吊るしてある鎖がガチャガチャ音を立て揺れていた。
「先生、今言った助手、サイテー」
「私もそう思う」
カズマをカナリアとして使って正解だな、私には、聞けない。
おそらく身体の穴、どことは言わないけど、あのスライムが侵入しているのだろう。
「言葉を選べよ、大惨事になりかねんからな」
「す、すみません」
彼の背中をポンと叩いて、小声で励ました。
(スライム(仮)を使えば、コンパクトな汚水処理設備ができるという事だ)
そういうと、カズマの顔が明るくなった。それでいい。
「先生、聞こえてるんですけど」
「そ、そうか、今、ポチの聴力を試したくて、ごめんよ、私が悪かった」
「もう、先生って、ずるい~」
その言葉に、私は頭を掻いて反省の色を見せつつ悩んでいた。
(今日まさか動くとは、思わなかったもんなぁ)
「動くってことを軍の誰かに見せた方が、予算の獲得には、いいんじゃないですか?」
モニターの前に座っていたヤマダが、私に提案した。
「暴走したらどうする。軽々しく言うな!」
カズマ、お前は、若さ故の暴走は一回は、有りだと思うぞ。
とは思うが、汚水処理設備の件だけで、ある程度、予算は取れそうだし……。
「ポチは、飛べないんですかね?」
ヤマダ、おい、余計な事いうなよ。
羽根らしい物も、花火っぽいものもない。
ただ、スライム(仮)みたいなのが出てこないとは言い切れない。
魔力や魔法という物がはっきり解明されてるわけじゃないしな。
「先生、飛べるなら、私、飛んでみたいです」
ミーコ君の意見は、聞こえないフリをする。
「先生、私、飛びたい!」
ほら、そういう流れになった。だから、周りに誰がいるか確認して言えつーの。
「残念だが、ポチは飛べないよ、ミーコ君」
この世界発の有人飛行、いや、箒に乗った魔女がいたか…
ともかく、今日は止めておきたい、頭がパンクしそうだ。
「先生、ポチの肩のカバーが動いてます」
カズマが指を指した。ああ、見えてるから知ってる。
もはや嫌な予感しかしない。
「やっぱり、僕の言ったとおりだ。ポチは飛べるんだ」
さすがに、このヤマダの意見に私はキレた。
「あほか、この実験室から、どうやって空に飛び立つんだ?えっヤマダ!教えてもらおうか? それに飛んだら、最後はどうなる?落ちるんだよ、分かるか?」
叫んだら息が上がった。
「それに、どれだけ魔力があるか分からないんだぞ」
このカズマの慎重な意見に同意する。
ずっと飛んでりゃ落ちないだけど、そりゃ無理だろ。
肩の外装が左右に割れ、内部のフレームがせり上がる。
なるほど折り畳まれていたのか…、フレームが展開して薄いブレードのように広がり一気に尻まで伸びた。それをサポートするかのように、小さめのブレードが肩から横に拡がっていく。
「完全に飛行準備シーケンスに入ってますね」
ヤマダの言う通りだ。しかし、仮に飛んだとして、前の壁にぶつかって終わりなんだよ。
飛行準備シーケンス? 破滅へのの間違いじゃないの? 結果は見えている。なんとか止めないと………ギリッと歯ぎしりして止まらんよな。
「ミーコ君、前の壁にぶつかって飛べないから止めなさい」
一応、目の前の避けがたい事実を叫んで説得を試みるか。
「先生、脚部が広がっていきます」
カズマに指摘されて、慌ててポチの脹脛を見た。
なんだ、円錐状に膨らんでいる。
「こむらがえりですかね?」
そのほうが、ありがたいが、何か排気を始めている。
(間違いなく花火の類だな)
次の瞬間、室内なのに異常な空気の流れを感じるや変な音がした。
「まぁ~」
その訳の分からん音が実験室に低く響く。
私は思わず耳を抑えてうずくまった。
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