第3話 急降下
「そうだった。モブキャラの活躍する場はここしかない!」
そう言ってシバは伝声管の蓋を開けると
「機関室! 聞こえるか!!」
と怒鳴った。
「おぅ、なんだ! 艇長」
しわがれた声が伝声管から返ってきた。声の主は機関長のオージーだった。
「おやっさん! 今からドラゴン退治をやる。行けるか?!」
「今からぁ? ドラゴン退治だとぉ! あぁ、大丈夫だ。で、当然主砲も使うんだな!」
「ああ、使う。急降下で突っ込む」
「また無茶な事を……」
オージーは呆れたように言った。
「一撃離脱はドラゴン退治の鉄則だ!」
「そうだったな。分かった!」
シバは満足そうに頷くと
「よし。じゃあ、カーン頼む」
と軽く振り向いて言った。
「了解。艇長……でもモブキャラは無いぜ。せめてサブキャラと言って欲しかったな」
名前を呼ばれたのは、アキトと共に
「そうだったな。失礼した」
とシバは口元を少し緩めた。
カーンは被っていた艦内帽のつばをコクピットのドアの前で後ろに回すと、扉を押し開いてすぐ横にあるラッタルと呼ばれる梯子のような階段を上って砲塔に向かった。カンカンカンとラッタルを登っていく音がかすかに
カーンが操縦室から出ていくとシバは表情を改め、再び伝声管の蓋を開けた。さっき機関室と話をしたのとは違う伝声管だった。
「調理場!! 今から急旋回やるぞ!」
「あぁ~ん?! なんだとぉ! 無理!! 飯抜くぞ!」
声の主は女性だった。料理長アイリスの声だ。
「ドラゴン退治だ! 時間を二分くれてやる。それで何とかしろ!」
アイリスの言葉など意に介さないようにシバはそう言うと伝声管の蓋を閉じた。
伝声管から罵声と部下に大声で指示を繰り出すアイリスの声が聞こえたが、それは閉じた蓋にさえぎられてしまった。
「今一番の戦場は調理場ですね」
ショーンが苦笑いしながら言った。
「まあな。取り舵から回り込むぞ! 一気に降下してやり過ごしてから急上昇で、すれ違いざまに片を付ける!」
「了解」
ショーンはそう言うと操縦桿を左側に倒しながらゆっくりと押し込んだ。
少し遅れて機体が旋回を始める。
「良い感じだ。そのまま一気に高度を下げろ!」
シバは満足そうに言った。
「了解。高度下げます」
ショーンが応えた。
シバはおもむろに正面のパネルのボタンを押した。
艇内にサイレンがけたたましく鳴った。
伝声管に向かってシバが叫んだ。
「今から炎龍を
艇内はその一言で一気に慌ただしくなった。
甲板員は全員所定の銃座についた。
「高度二千。降下中!」
ショーンが叫んだ。
「まだだ」
とシバは言った。
「高度一千五百…………一千……」
「よし。信号弾を上げろ!」
とシバが振り向き叫んだ。
「了解!」
アキトはサイドパネルのボタンを押して信号弾を射出した。黄色の煙の帯が空に漂った。
ワイバーンに乗ったクロードはそれに気づくと一度右腕を高く上げてから、注意を引きつけるように炎龍の鼻先をかすめて飛ぶとその背中に回り込んだ。
炎龍は首を激しく回してワイバーンを追いかけた。
コックピットでは
「高度八百!」
とショーンが叫んだ。さっきまで眼下に見えていた炎龍が、今は頭上に居た。飛行艇は炎龍の死角にあった。
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