2-1:「dark room」
Nobody, no me.
Someone breathes inside of me.
Don’t breathe inner me.
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暗室に静かに響いている──。
真新しくはないデバイスの、少し埃被った可動音と
画面に映る映像から僅かに漏れ出る音だけがそこに在った。
ディスプレイを取り囲む男たちは呼吸すらも禁じられているかのように黙り込んでいる。
PCの前には、ドレッドヘアに真っ赤なアロハシャツの男が座り、彼を中心に、少し後方に白い制服に身を包む青年が一人、その隣に白衣の青年、その反対側にスーツの男たちが立ち、1つのディスプレイを見守る様に、または畏怖するかの様に見つめていた。
きっと良くないものが流れているのだろう。
皆眉を顰め、白い制服の青年に至っては、
同じく真っ白なハンカチで口元まで抑えている始末だ。
顔も白い。
ノイズがかった映像がブツ、と切れたのと
誰かが、ふう、と息を吐いたのは同時だった。
アロハシャツの男、権藤は困った様にこめかみを揉む。凝り固まった背筋を解すように身じろぎをし、天井を仰ぎ見る。
ギ、と椅子が揺れる。
仄暗い電灯は答えを返してくれない。
うーん、と小さく唸り、ぼんやりと画面の再生ボタンを見るが、自分と男達の姿が反射しているだけだ。
食い入るように画面を見つめ、前屈みに座り直す。
組んだ指を上から順に動かし、
権藤は重い口を開いた。
「本件は特別機密事項L-401に該当します。
…ここで見たものに関してはこの室内で留めるように。
お願いします。」
権藤の決定に、難色を示したのか
スーツの男が口を開きかけるが、
サングラス越しの目が揺らがないことを悟り、
バツが悪そうに黙り込んだ。
「うん、東京都治安維持局として、そう判断しました。」
穏やかな声色が、室内の重い空気に浮いている。
尚も動こうとしないスーツの男達は
無言で抵抗を表しているのか。
権藤の発言に重ねるようにして
白衣の青年が内鍵を外し、ドアを上げる。
廊下から入ってきた明かりに埃が舞っているのが見えた。
「お出口はこちらでごさいま〜す。」
人の良さそうな笑顔を浮かべているが、
薄らと開いた琥珀色の瞳には、早く、という圧を感じる。
ほら、と青年がもう一度促すように手を動かすと、
スーツの男達は
顔を見合わせながら渋々部屋を出て行った。
カツカツと急ぎ気味に革底が廊下を打つ音がして、
消えていく。
室内に残った者たちも部屋を後にしようと機材や証拠の撤収にかかる。
電源用コードや鍵、使わなかったプレイヤーなどを片付けていく。
「それじゃあ、出ましょうか」
権藤の声に青年らが頷き先に部屋を出る。
最後に部屋を一望しながら、何も残っていないことを確認する。
此処には何も無かった。
此処では何も無かった。
パチリ、と
電灯のスイッチが切られ、
真っ暗な部屋からは誰もいなくなった。
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