異世界のお姫様は恋した男の子にこっちの世界でも甘々の様です
佐々木雄太
プロローグ
ここは魔法や剣のファンタジーの世界ではない。
自然豊かな環境に囲まれた日本のとある場所である。
人の行き来、自動車の行列は、朝の7~8時頃と、割と日本標準的な時間帯と同じである。
日本の中心である東京とは違い、人混みになるほどではない。
この街の総人口は20万人を切ってはいるが、世界を誇る会社があるのか、寂しい街ではない。
「すー、すー、すー」
ここに一人、朝から暖かい温もりを感じながらスヤスヤと寝ている人物がいた。自分の体の体温で暖められた布団から抜け出す気配がなく、毛布に包まったまま目蓋をいまだに閉じている。
「拓海君、起きてください。朝ですよ」
と、布団の中で、未だに起きない人物に誰かが優しく声をかける。
「ほら、朝ですって、早く起きてくれないと、学校に遅刻してしまいますよ。いいのですか? 私が作った朝ご飯も食べられずに慌ててしまいますよ」
耳元で囁いた甘い声が、彼の脳内を少し刺激する。
「ん、ん……。眠い……」
「そんなことを言わないでください。もう、朝の七時なのですよ。早く起きてくれないと、ご飯抜きにしますよ。せっかく、拓海君のために味噌汁に好物なとろとろの玉ねぎと豚肉を入れて作ったのに食べないのですか?」
それを聞くと、彼の体がびくっと、小さな反応を見せる。
「シャル…」
「どうしたのですか?」
「朝の眠気覚ましに膝枕を…してくれない…?」
と、彼は寝ぼけているのか、目の前の薄っすらと視界に入る見覚えのある彼女に向って言った。
「な、なにを言っているのですか⁉」
彼女の顔は真っ赤になって、今にもゆで卵みたいに沸騰している。
「俺は、朝から真剣だ。いいか、シャル。日本には、女性が男性に対して、膝枕をする伝統的な文化があり、その逆もあるのだが、朝から美少女の太腿に膝枕をされる一健全な日本男子のフェチとも言えるのだ」
と、さっきまで眠そうにしていた人間の言葉ではない。
「フェ、フェチですか……」
彼女は、ジト目をしながら、納得していないご様子である。むしろ、彼が言っていることが本当なのか、疑わしい程である。
「そうだ、美少女に膝枕されること、つまりそれは、健全なことであって、如何わしいことなど一切ない。なので、膝枕、お願いします」
彼はそういうと、ゆっくりと体を上半身だけ起こして、右手で軽く布団をポンポンと、叩く。
「…………」
彼女は数秒ほど、表情が固まったまま、その場から動こうとはしなかったが、小さなため息を漏らした後、「仕方ないですね」と、言って、布団の上に正座して、自分の太腿をぺちぺちと叩いて、彼の頭を優しくのせた。
だが、彼の膝枕に対する頭の向きは違っていたのだ。
顔を下にして、彼女の太腿から匂う甘い香りを変態のようにすーはー、すーはー、と顔を埋めた。
「……!」
さすがの彼女も膝枕というものが、こんなに恥ずかしいものとは思ってもいなかった。日本に関する知識が浅いと言えども、これは絶対におかしい。嫁入り前の未だ、未婚の処女である彼女にとって、ゾッとしたのだ。
「拓海君、こ、これは…本当に…膝枕というものなのでしょうか?」
真っ赤に染めた顔を下におろして、自分の太腿の匂いを嗅いでいる彼に問いただす。
「そうだよ。これが、正しい膝枕のやり方です。それにしてもシャルはいい匂いがして、落ち着くな。うん、素晴らしい」
彼が存分に堪能していると、いきなり扉が開く音がして、誰かがずかずかと部屋に入ってくる。
「そんなわけあるかぁあああああ!」
と、叫びながら彼の頭を強打した。
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