第3話 ポスターと祈り

午後の町田は、いつもよりざわついていた。

駿河屋の前、信号待ちの人の間をすり抜けて、

一枚のポスターが風に揺れる。


【迷い犬 黒ラブラドール 名前:べす】

その写真の中の笑顔が、

まるでこっちを見て「だいじょうぶだよ」と言っているようだった。


貼っているのは、モケ女のりなとやよい。

「これでよし。やよい、次は木曽食堂ね」

「うん、でも…この笑顔、泣けるね」


同じ頃、Silent Riotの三人も動いていた。

ことねがSNSに投稿する。

【町田で黒ラブ探してます!#べす #町田ユニバース】

数分で拡散、コメントが増える。

“見つかりますように”“顔ペロ犬、元気でいて!”


北山は揚州商人でポスターを貼らせてもらい、

めぐるはリコリス弁当の店先で客に声をかける。

町田の人たちが、少しずつ同じ願いを共有していく。


みのたはポスターを抱えて、忠生公園の入り口に立っていた。

春風が紙をめくり、ガニヤラ池の水面が光る。

静かに目を閉じてつぶやく。


「べす、お前、絶対帰ってこいよ。」


その頃、

遠く八王子の暗い部屋で、

べすはかびた匂いの中にうずくまっていた。

誰もいない夜。

でもどこかで、知ってる声が聞こえた気がした。


“待ってるからな、べす。”


わたし、目を開けた。

胸の奥で、何かがポッと光った気がした。

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