愛犬べす
猫師匠
第1話 ぬくぬく午後の消失
わたし、べす。
黒いラブラドール。毛がつやつやしてるって、猫丸がよく言う。
でも今は、そんなことどうでもいい。
昼寝がしたい。
だって、春の午後って、空気まであくびしてるみたいなんだもん。
猫丸のひざは、世界でいちばん安心できる場所。
ペンの音。コーヒーの香り。
時々うとうとしながら、「よし、今日も模型の調子はいいぞ」って独り言が聞こえる。
その声を聞きながら眠るのが、毎日の幸せ。
窓から入る風が気持ちよくて、
わたしは夢を見てた。
駿河屋の前でおやつをもらう夢。
忠生公園で子どもたちに撫でられる夢。
町田の匂いがいっぱい詰まった、あったかい夢。
……なのに。
目を開けたとき、
風の匂いが違った。
空が、遠い。
見上げたら、知らない屋根の下。
人の足音。ざわざわした声。
ここ、猫丸の家じゃない。
体の下は冷たくて、鉄の味がした。
わたし、少し震えた。
猫丸、どこ?
みのたもいない。
いつものみんなの声が、ぜんぜん聞こえない。
どうしてだろう。
いつもはのんびりしてる胸が、ぎゅっと小さくなっていく。
“帰らなきゃ”って思った。
ただ、それだけ。
わたしは、まだ知らなかった。
この日から、長い旅が始まることを。
そしてその旅が、町田のみんなをひとつにすることも——。
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