珍獣妻と絶滅危惧夫 〜カオスな結婚生活の実話エッセイ〜

珍獣妻ひより

第1話 夫の朝立ちが完全消滅した日

僕の10歳下の妻ひよりは、黙っていれば美人だ。

色白で華奢で儚げで、誰もが「守ってあげたくなるタイプ」と言う。


……だが、中身は完全に別生物だ。


これは、清楚系肉食獣の妻と、

体力の限界を迎えつつある草食夫が、

家庭というジャングルでどうにか共存を試みる記録である。


朝、目が覚めた瞬間、僕は違和感に気づいた。


――おーい。今日はサボりか?


呼びかけても、反応はゼロ。

僕の下半身の“部下”が、突然の出社拒否を始めたのだ。


40歳。衰えが出てもおかしくない年齢だとはいえ、

今まではそれなりに出勤していた。


特に、妻による“毎日の点検”があるおかげで。


ひよりは、ちょっと変わっている。

いや、正直に言うと珍獣だ。


普通の夫婦がどうなのか知らないが、

ひよりはなぜか 僕の大事な部分を触るのが趣味 で、家事の合間にも、テレビを見ながらも、寝る前にも、「健康チェック♪」と手を伸ばしてくる。


僕はいまだに慣れていないが、

妻にとっては歯磨きと同じくらい自然な“日課”らしい。


そんな妻が、いつものように布団に潜り込んできて、

「チェック入りまーす」と手を伸ばしたのに――


今日の彼は、完全沈黙だった。


ひよりの動きが止まる。


「えっ、今日ゼロ!? フルゼロ!? これは事件だよ!!」


いや、そんな大事件みたいに言わなくても。


僕は僕で、じわじわショックを受けていた。

年齢? ストレス?

昨日の唐揚げの食べすぎ?


「ほら、冬で寒いし……」と弁解する僕に、ひよりは即答した。


「関係ないよ? いつも反応するじゃん? 毎日触ってる私が言うから間違いない。これ本気でやばいよ」


ぐうの音も出ない。


そのとき、

バタバタバタッと足音がして、

小さな怪獣が寝室に乱入してきた。


「パパーー!」


勢いよく腹にダイブ。


「ぎょえーー!!」


瀕死だった部下は致命傷を負った。


娘(2歳)は僕の腹をバンバン叩きながら、

「パパー、おきてー!」

と無邪気に笑っている。


こうして、

僕の“朝立ち絶滅危機”は、珍獣妻と破壊神娘の連携プレーによって華々しく幕を開けた。

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