第5話 新入生歓迎会になんて出るもんじゃない

毎年恒例、新入生歓迎会。今回、僕は応援団員としても、生徒会役員としても参加することになった。身体は一つしかないのに、どうしろというのだ、僕の役割。僕の苦労はまだまだ続く。


通常、新入生歓迎会において、生徒会役員は、役員席で歓迎会の仕切り。そして、応援団は、一年生の護衛担当。

でも、僕の身体は一つしかない。生徒会の席にいて、歓迎会を仕切るか、応援団の一員として一年生を守るか。

……生徒会と応援団の協議の結果、

「基本応援団として一年生のガードを。で、時間が空いたら生徒会の仕事」

と言うことになった。僕はどうやら「二人」いると思われているらしい。お前ら、僕を殺す気か。


うちの高校の新入生歓迎会は、ほぼ、新入生がビビる仕様だった。出身中学ごとに壇上に上がって自己紹介をしてもらうのだが、下には上級生たちがいる。自己紹介の後、その上級生の間をすり抜けて、新入生用の位置に着くのだ。

このときの上級生が基本的に無茶苦茶で、飛びかかって襲ったり、ウケのいい挨拶をした新入生は胴上げしたりの乱痴気騒ぎになるのが恒例だった。それが行き過ぎないように新入生を守るのが応援団の仕事。正直、新入生並に揉みくちゃにされる、過酷な役割だった。新入生へのガードのはずが、逆にもみくちゃにされたりもした。

僕は、今回、それに加えて生徒会の仕事もあった。やる前から既にゲッソリだった。


そして当日。

体育館に新入生たちが入場してくる。緊張した顔、期待に満ちた顔。

「じゃ、頼んだぞ」応援団の先輩が僕の肩を叩いた。

壇上では、次々と新入生が自己紹介を始める。

「○○中学校出身――」 そして、上級生の作る「花道」を通り過ぎて――

「うおおおお!」

「新入生だぁ!」

上級生が飛びかかる。新入生が怯える。怯えて当然だ。自分たちもそうだったのだから。

「落ち着け!落ち着け!」僕たち応援団が割って入る。

この時点で、すでに僕は汗だくだった。


なにしろ、事前準備が大変だったのだ。

各部活動の紹介の際に配るパンフレット的なものを作成するため、各部部長に依頼を出したのだが、どうにも反応しない部がいた。あの「サッカー部」だった。

仕方ないので、そのパンフレットには「サッカー部」を載せないことにした。催促しても提出されないものは載せられない。そういう判断の結果だった。


パンフレットを準備し、新入生たちをガードする。すでに僕は精神的にも肉体的にも疲労困憊していた。

最後の新入生が、先輩たちの輪を抜けた頃に、妙な時間が空いた。僕は壇上を見る。

――誰も仕切ってない!!!

僕は愕然とした。壇上では司会役の二年生の生徒会役員がどう進行すれば良いか困っている。肝心の会長の姿は……どこだ?!

「次、どうすれば――」困惑している司会役の後輩。

「落ち着いて。まず、各部の紹介を始めて」

僕は小声で指示を出す。会場には聞こえないように。

「順番は、パンフレットの通り。持ち時間は一人5分。時間が来たら次に行って」

「わ、わかりました」

後輩は深呼吸して、マイクに向かった。

「それでは、各部活動の紹介を始めます」

――よし、なんとかなりそうだ。

一年生は全員体育館に集合し、所定の位置にいた。その意味で僕の応援団の仕事はほぼ終わっていた。なら今度はこの役目なのか。


各部部長に「部活紹介」を依頼し、舞台袖で指示を出す。

「紹介は、五分でお願いします。時間が来たらこちらで合図しますんで――」

……アア、イッタイボクハナニヲシテイルノダロウー……


運よく、部の紹介は順調に進んだ。司会役も落ち着いて司会をこなしている。

「……ありがとうございました。続きまして――」司会が告げる。

そして、「サッカー部部長」の出番がきた。「皆さん、パンフレットを見てください。と言っても、僕たちの部の記載はありませんが……」

新入生から笑いが起きる。

――この展開を狙っていたのか!やられた……

そうして、サッカー部の部長は説明を始めた。持ち時間の5分が過ぎた。しかし止める気配が無い。舞台袖からの僕の指示も無視して、サッカー部部長は話し続ける。

僕は実力行使することにした。

舞台袖から出て、サッカー部部長からマイクを奪い、退場を促す。

マイクを奪われる前に、サッカー部部長はマイクに向かって叫んだ。

「サッカー部をよろしく!」

新入生たちから別の笑い声が聞こえてくる。

――負けた……。

僕はそう思ったのだった。


その後、「新入生歓迎会」の流れが落ち着き始めた頃、会長の姿が見えた。なんと、体育館の二階から全体を見ていた。

「いやー、ヤバいかなーと思ったら、君が駆け込む姿が見えたから、大丈夫だろうって、ここで見てたよ。実際、大丈夫だったろ?」

会長。僕を殺す気ですか。本当に。

――本当に、新入生歓迎会になんて出るもんじゃない。


<続く>


次回:第6話:「文化祭実行委員なんてやるもんじゃない」

「生徒会役員は、例年、文化祭の実行委員もするから」……なんだって?そんな話は聞いてないぞ?!生徒会引退間際で言われた、まさかの出来事。僕の仕事はまだ終わらない。

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