「生徒会役員」になんてなるもんじゃない。
いわん・うぃすきー
第1話 生徒会になんて立候補するもんじゃない
「生徒会の副会長になってくれないか?」次期生徒会会長候補から言われた意外な言葉。僕は単なる応援団員だってのに、何故?――ここから始まる苦労だらけの僕の高校物語。
「生徒会の副会長になってくれないか?」
僕は、きょとんとした。いったい、何を言っているのかと。
「……副会長、今、なんて?」
「だから、今度の生徒会の役員、副会長に立候補してくれないか、って」僕と同学年の生徒会副会長はニコニコしながら言った。
――だから、なんで、それを、僕に言うの?
僕の頭の中が真っ白になった。
僕が通っているのは、某東北地方の県立高校。山の中腹にある小規模な進学校で、男女共学、私服というのが僕にとっての決め手だった。周囲の進学校は男子校か女子校ばかり。共学がいい――その一心で選んだ高校だった。
中学三年時の受験戦争を乗り越え、無事そこに進学し、そこで、なぜか1年の後期から応援団になっていた僕は、3年生が引退する間際の2年次前期の終わりに、当時の生徒会の副会長から口説かれたのだった。
「僕が会長に立候補する。だから、君は副会長に立候補してくれ」
と。
なぜ、僕を選ぶのか。「だから、君は」の「だから」の意味がまったくわからない。
……どうやら、応援団として生徒会の話にくちばしを突っ込んでいたのが元凶らしい。校舎もコンパクトな僕の高校は、あまり余剰スペースがなく、「生徒会室」は生徒会役員と応援団が共同で使っていた。勢い、生徒会役員の打ち合わせに応援団が意見をする事もあれば、生徒会から応援団に手伝いをお願いされる事もある、「仲良し」「馴れ合い」「癒着」色々表現はあると思うが、生徒会と応援団の境目がよくわからない状態だった。
ので、ついつい、口を出したい自分は、たまーに(本当にごくたまーに)生徒会の打ち合わせで意見を出してたりしてたのだが。そこで目を付けられたらしい。
「こいつは生徒会の事情も知ってるし、使える」と。
……「口は災いの元」である。「後悔先に立たず」である。なんということだ。
僕は固辞した。冗談じゃない。ただでさえ、応援団をしているだけでも目立っているのに、生徒会役員なんて冗談じゃない、と。第一、僕に投票する人間なんていないだろ。僕は地味に、地味に高校生活をしたいのだ。……まぁ、応援団に無理矢理入れられた時点でそれは崩れているのだが、「目立ちたくない」のは今でも変わっていない。目立つのは応援団の時だけで十分だ。生徒会役員なんて荷が重すぎる。というか、僕の柄じゃない。僕のキャラじゃない。
……しかし、まぁ、なんというか、周囲の包囲網がスゴすぎた。集中砲火も良いところだった。応援団員だけでなく、生徒会の顧問までが口説きにきた。クラスでは目立たない地味人間である僕が、なぜ、生徒会関係になると推されるのか。謎過ぎた。が、推されたのは事実だった。
その日から、次期会長の口説きが始まった。正直、辟易した。
「だから、僕はそういう『器』じゃないって……何度説明すれば……」困る僕。
「君じゃないと困るんだって!」次期会長はしつこかった。諦めなかった。
応援団の先輩も「お前、やってやれよ」と言い出す始末。
生徒会の顧問まで「君なら大丈夫」と太鼓判を押す。
数日後。 僕は観念した。
「……わかりましたよ」
「本当か!」次期会長の顔が輝いた。
……結局、僕は、次期会長と握手した。次期会長の口説きに根負けしたのだ。
僕の副会長立候補を聞いて、応援団の先輩が、「応援演説してやるか?」と声をかけてきてくれた。でも僕はそれを断った。応援団気質のスタイルで応援演説をされても自分のキャラには合わない、と思っていたからだ。応援団の選挙ではない。生徒会役員の選挙なのだ。だから、熱血型の人よりは、信頼されている現生徒会の人から応援されたかった。そこで、現生徒会で書記を務めている、普段は静かだけれども、生徒会役員として上級生からも信頼されている人にお願いした。
「え、なんで僕なの?」
と、僕と同じように驚いていたが、「うん、いいよ」と快諾してくれた。その言葉は、僕にとって、とてもとてもありがたかった。
さて、基本的に、うちの高校はのんびりムードで、生徒同士で論戦をしたり、暴力沙汰になったり、などといった話が噂になる事がほとんどない、非常に平穏な高校だった。そのため、記憶にある限り、生徒会の選挙も、基本的に信任投票であり、立候補者が多数いて、競い合うような選挙は滅多になかったらしい。
そして、その状況を知っていた次期会長候補(副会長)は、自分の片腕となる人物(副会長候補)をあらかじめ決めておいたらしい。なぜ、その一人に僕が選ばれたのは甚だ理解できなかったが。
で、選挙公募日。
立候補者は会長1人。
そして、副会長の立候補者は3人だった。高橋哲郎。金山透くん。そして、僕。金山くんは、僕同様、会長候補に口説かれて立候補したらしい。しかし、この状態は、会長候補も予想外の出来事。普通なら、穏当に会長が立候補を求めた副会長が2人立候補して、信任投票で済むのが例年の習いなのに――
僕は焦った。誰よりも焦った。正直、選挙対策なんてしてなかったからだ。確かに生徒会副会長になるのは嫌だった。でも、それ以上に「落選した候補」と呼ばれるのは、もっと嫌だった。立候補した以上は当選したい。それは偽らざる気持ちだった。なのにこの事態。なんてこった。
そうして悶々と悩んでいるうちに時は過ぎ、各候補の応援演説と、自己アピールの日が来た。久々の対立選挙戦でもあるせいか、体育館に集まっていた生徒たちは、少し、興奮気味だった。
会場のざわめきが静まり返ったところで、まず、会長のアピールタイム。現会長と副会長による、なんという手慣れた演説。なんでこの人が、僕を副会長として来てくれるように願ったのか、まったく理解できない。生徒会はお前一人でいいじゃん、と正直、思った。
次に、二つの席を3人で争う副会長のアピールタイムに移った。
まずは、高橋哲郎。生徒会関係者の誰もが予想してなかった立候補者だった。というか、僕は「なぜ、そこまでの気持ちがあるなら、会長に立候補しなかったんだろうか?なぜ副会長なんだろうか?」と思っていた。
いきなり、高橋君は、ギター片手に登場した。それだけで、全生徒大盛り上がり。そして、一曲披露した後、
「俺は!水とお茶と牛乳しかおいていない、この学校の購買で!コーヒー牛乳が販売可能なように努めるぜ!これは、俺の公約だ!」
そう叫んで、自己アピールタイムは終了した。もう、全生徒、大喝采。この時点で、
「あ、僕は落ちるな」
と観念した。あれには勝てん。無理だ。
次は僕だった。場を盛り上げた高橋君の後という非常に難しい順だった。ここで、応援演説に熱血型の応援団の先輩に依頼しなかったのは正直、正解だと思った。応援を快諾してくれた先輩が、静かに、淡々と応援演説をしてくれた。おかげで、会場の熱が下がってきた。ガヤガヤしていた体育館が徐々に静まりかえり、先輩の応援演説に耳を傾け始める。
「……ということで、彼を副会長に推薦します」先輩が静かに僕の応援演説を締めた。そして、拍手。よかった。いつもの体育館の雰囲気に戻った。
そして、僕の番。僕は高橋君の演説とその盛り上がり方を見て、正直、負けたと思っていたので、かえってサバサバと演説することが出来た。
マイク前に立ち、一礼する。「皆さん初めまして。今回、生徒会副会長に立候補させていただいた――」正直、それ以降、何と言ったか詳細は覚えていない。「『コーヒー牛乳を購買に!』というような具体的な公約はありませんが――」とかは言ったかもしれない。
そして、翌日の投票日。即日開票。
僕は投票に行かなかった。生徒みんなの意思に判断を委ねよう。そこに僕の意思が介在してはダメだ、という、妙な気持ちになり、自らは棄権した。
結果。
会長は問題なく信任当選。
そして、副会長はブッチギリ一位で高橋君が当選した。これで、「購買にコーヒー牛乳導入」が今期生徒会の公約になった。
僕は、金山君とギリギリ数票の差で争い、二人目の副会長に選ばれた。
金山君は次点で落選してしまった。でもその差が本当に「数票差」だったことから、書記として会長から推薦され、後日の書記・会計・その他の役員信任選挙において改めて書記に信任された。
なんのことはない。結局、副会長に立候補した3人が3人とも、立場こそ違うものの、全員、生徒会役員になることになったのだ。
なんとも心臓に悪い選挙だった。が、これは僕に襲いかかってくる苦労のほんの序章にしかすぎなかったことを、後で僕は知ることになる。
――本当に、生徒会になんて立候補するもんじゃない。
<続く>
次回:第2話「他校の生徒会との交流会になんて行くもんじゃない」
生徒会役員になってからの初めての仕事は、引退前の前会長に引きつられての「市内高校生徒会交流会」への出席だった。……僕の初めては外交官だった。
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