第31話 熱源

 9時20分、東小松川交差点付近。佐合、湧永、本宮による三つ巴の戦いが続いていた。湧永が「日沈聖地」で2人を退ける。本宮の反応が遅れ体勢を少し崩した。その隙を見逃さなかった佐合と湧永が突撃する。本宮はすぐに「善光暗道」を詠唱し発動させる。本宮の周囲が突如暗転し佐合と湧永はその場で止まる。視界が開けると本宮は2人の背後に移動していた。佐合はすぐさま近くにいた湧永へ拳を振るう。しかし湧永もそれに素早く反応し前転して攻撃を回避した。お互いが距離を取って再度にらみ合いになったその時だった。現代にそぐわない恐竜の咆哮が響く。3人が咆哮の聞こえた方向を向くと巨大な翼竜がこちらに向かってきていた。しかしその翼竜は着地せず地面に近い距離で飛行しそこから2人が降りて着地した。その人物は円谷と師岡だった。

 8時55分、多賀公園付近。遠藤と板垣の戦闘が続いていたが、お互いに充電残量が厳しい状態になってきたため格闘戦が多くなってくる。その様子を南浅川の対岸から南郷が見届けていた。板垣の蹴りが遠藤に炸裂しそのままバク宙して距離を取った。お互いに睨み合いになった時両者の間に雷が落ちる。すると公園に新井がやってくる。「いがみ合っている場合じゃないよ。対岸にアヤカシンじゃない敵がいる。」と新井が教えると、南郷は跳躍して川を越え公園内に着地した。新井は「君でしょ。アヤカシンの大量発生や郷リンの不具合を起している犯人は?」と聞くと「どさくさに紛れて俺も守の排除を試みたが駄目だったか。」と隠すことなく南郷は認めた。板垣は新井に近づき「僕と遠藤は既に充電残量が突きかけている。相手の戦闘術は高いか?」と耳打ちすると「大丈夫。相手は参謀総長だけどさすがに3対1なら格闘戦でも制圧できると思う。」と新井も板垣に耳打ちで返した。

 9時10分、貝坂通り付近。町内に轟音が響き周囲のビルが一斉に崩れる。煙の中から無数のタコ足が伸びタコヤキングが体勢を立て直す。そして飛び散るビルの残骸を器用に踏み台にして2人の人間が格闘戦を展開していた。「こいつ、なんやねん。タコヤキング出して充電残量の回復を図ったのに、わてが援護しなかったらすぐに倒されとったぞこのタコ。」と浪速は東野の強さに舌を巻いていた。タコヤキングが脚で薙ぎ払う攻撃を仕掛ける。2人は素早くかわし格闘戦へ戻る。東野は数的不利を解消するために入り組んだ路地へと入っていく。しかしタコヤキングは建造物を全て薙ぎ倒して追跡してくる。「タコだからてっきり建物に這うように来るかと思っていたが予想が外れたな。」と東野は浪速に注意しつつタコヤキングを分析していた。浪速もタコヤキングの様子がおかしいことに気付いていた。「おかしいな。さっきから注意散漫になってる気がする。もしかして近くに別の対象がいるんちゃう?」そう浪速が思った瞬間タコヤキングは東野とは正反対の方向へ「濃墨ソース砲」を発射する。砲の先にいたのは勝山と石動だった。砲撃が命中した永田町駅付近が激しい爆風に包まれる。するとタコヤキングは猛スピードで石動たちの方向へ猛突進を始めた。石動は「小錦」を詠唱し巨大な鯉を召喚し時間を稼ぐ。鯉はタコヤキングに対し大口を開けて突撃するが、タコヤキングが複数の脚で鯉の体を掴みそのまま引き千切って倒す。勝山は瓦礫に紛れながらタコヤキングに接近し「関刃」を詠唱、タコヤキングの脚を1本切断する。しかし他の脚がすぐさま勝山に対し攻撃を行い吹き飛ばされる。勝山が瓦礫に直撃する前に石動がキャッチし、そのまま「巨砲大艦集団 呉」を詠唱する。すると無数の巨砲を備えた戦艦軍が集結しタコヤキングへ一斉に砲撃を開始する。タコヤキングは周囲の建物と共に砲撃を受け続けた。しかしタコヤキングも抵抗する。脚を伸ばし体を回して回転を始めると、タコヤキングはそのまま艦艇たちに近づき次々と撃破していった。撃破された艦艇の1隻が石動たちの方へ向かって倒れ石動たちは吹き飛ばされた。タコヤキングが2人の下へ迫ってきたその時、浪速と東野がタコヤキングへ向けて一斉に「虹彩海橋」「幸運天塔」と攻撃した。東野が「説得するのに時間がかかり駆け付けるのが遅くなったことはお詫びします。」と言うと「まさか対象が守だったせいで、わて含めた4人を攻撃対象と認識してたとは思わへんねん。でもこれでここにいるみんながホンマモンやとわかったわ。」と浪速も言った。するとタコヤキングが4人の方へ口を向ける。「何やあのタコ、まだ元気なようやわ。待っとき、今片付けちゃる。」と浪速が攻撃しようと近づくと東野が止める。「私の方が残量に余裕があります。ここは私が確実に仕留めます。」そういうと東野は「郷愛風土 3世3塔」と詠唱した。東野の周囲に3つの法陣が出現しそこから3つの塔が出現する。それらはゆっくり東野の周りを公転しそのまま上昇、塔の頂点を東野が見つめるタコヤキングへと向けた。やがて3つの頂点から眩い光が放たれ始める。東野は「とうは。」と言った瞬間その光は信号、街灯、そして周囲のビルの窓ガラスを吹き飛ばしながらタコヤキングへ放たれる。タコヤキングもそれに濃厚ソース砲で対抗したが、その攻撃は競り合うことなく消し飛ばされタコヤキングに命中、そのままタコヤキングは消滅した。光が通過した道路には人の足跡のような焦げ跡が残っていた。3人はその圧倒的火力にただ圧倒された。

 9時30分、是政交番前交差点付近。府中戦域にも決着の時が訪れようとしていた。「香蘭絨毯」という詠唱と共に爆発が連鎖的に発生し、それを全て間一髪で岡田がかわしていた。持田は追撃をかけようと照準を定めるも背後の気配に気づき即座に技を変更する。「有松布」と詠唱し受け止めた刀を握っていたのは今谷だった。今谷はそのまま「湾中覇気」を使用し持田を吹き飛ばす。岡田は吹き飛んだ持田へ「怨雷」を詠唱し追撃をかけた。持田は防げずこれを直に受ける。持田は2人が共闘していると思いかけたが、次の今谷の行動でその考えは一蹴される。今谷は5つの空気弾を生成し刀を振るって射出した。それらは全て岡田へ向けて放たれた。「門司煉瓦港」ですぐさま盾を生成し岡田は寸前のところで防御する。そして生成した盾を投擲し今谷の手から刀を弾くと格闘戦を挑みに今谷へ突撃する。今谷は「指宿砂熱」で自身の周囲の地面を砂に替える。岡田は砂地に変わる瞬間に跳躍し「奈多夕光断層」で大地を割る。割れた大地から砂が続々と吸い込まれ元の姿へ戻った。着地した岡田はすぐに右腕を前に出し今谷の左拳の攻撃を防ぐとリズムよく殴打を繰り返す。そこへ持田が「幽玄七段滝」を詠唱し7回の屈折を繰り返した高水圧の水が岡田と今谷へ向かう。2人は格闘戦をしながらも「下り飾り」「水峡苔」と詠唱し外野の攻撃から身を守った。岡田と今谷はお互いの不意を突く形でほぼ同時に蹴りを行う。両者の蹴りが炸裂し2人の距離は離れる。持田も一度追撃を止め3者はにらみ合いになる。誰が先手を取るか心理戦になっていたその時だった。「鴨の濫水」その詠唱と共に一帯が水に呑まれる。するとコンビニの近くに吉村が紅い目を光らせて3人を見ていた。吉村は3人に「不毛かつ大義の無い戦は止めにしてはどうか?もしこれ以上戦うのであれば、私が相手をする。」と圧をかけた。3人に迷いはなかった。3人は一斉に吉村へ突撃する。それを目の当たりにした吉村は「何と愚か。」と吐き捨て「五山山火」と詠唱。吉村は燃え盛る筆を手に取り今谷に燃え盛る大の字をぶつける。今谷はあらゆる物理法則を停止させる「不落岩」で身を守ろうとするも、技を焼き切られ直に攻撃を受ける。一方岡田と持田は吉村に対し挟撃の形で格闘戦を挑もうとする。「郷愛風土 寺社列閣」吉村がこう詠唱すると、岡田と持田は彼の格が1段階上がったことを感じた。それを知らない時に脳による殴打の指令を受け取っていた岡田の左拳の攻撃が吉村に命中する。「ダメージが低い。」岡田は自身の攻撃に違和感を覚えた。吉村も挟撃の状態での格闘戦に応じる。吉村からの一撃を受けるたびに2人は彼の攻撃力が高くなっている事に気付く。「保津川砲」何の前触れもなく発射された攻撃に岡田は全く気づけず近くの建物まで吹き飛ばされる。吉村はすぐさま持田へも攻撃を行う。持田も右足を蹴り飛ばし左腕を引っ張って背中を晒す形で姿勢を崩したところを強く蹴った。一瞬の事で持田は理解できないままアスファルトに叩きつけられた。そこへ背後から今谷が「士刀田原坂」で召喚した刀を吉村の頭をめがけて振り下ろした。鈍い音が鳴った。まっすぐ下へ振り下ろされた刀身は吉村の頭に命中するとともに、亀裂を走らせ2つに折れる。今谷は驚嘆するしかなかった。そのまま吉村は上体を斜めにして地面を蹴り上げ、背後にいた今谷に頭突きする。強力な頭突きを顔面に受けた今谷は気絶した。

 9時15分、福生市付近。岩手守の葉垣と静岡守の平岡がアヤカシンを制圧していた。「やはり指定された以外の場所ではアヤカシンはそこまで多くないな。」葉垣がそういうと、2人の郷リンが1人のアヤカシンの接近を示した。2人が警戒するとその反応は館山だった。それを見た2人は一気に戦意を失った。例え偽物であったとしても叶わないことを知っていたからだった。すぐに2人は逃亡しようと背を向けると館山が呼び止める。「待って、お願いがあるの。」その声を聞いて2人は困惑しながらも振り向いた。「アヤカシンが八王子へ移動している。周囲にいる守たちを集めて八王子を徹底防衛してほしいの。」葉垣が首を傾げる中平岡が「分かりました。」と快諾した。その場を離れた後「いいのか?アヤカシンの罠かもしれないぞ。」と葉垣が指摘すると「事実じゃないとわかるようなことが起きた時に止めればいい。それに罠でも八王子防衛の指示なんてしないと僕の直感が言っている。」と平岡は答えた。葉垣は「もし近くに守たちがいなかったら2人で八王子を守るのか?」と平岡に聞くと平岡は空へ指を向ける。葉垣が指の先に視線を合わせると空を漂う車がいた。「何だあれ?」葉書は唖然とする。「たぶんだけどあれは守の仕業だと思う。僕の直感が言ってる。」平岡はそう言って空を漂う車を追いかけた。葉垣も何も言わず平岡の後について行った。

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